経団連は6月26日、東京・大手町の経団連会館で雇用政策委員会国際労働部会(得丸洋部会長)を開催した。厚生労働省大臣官房国際課の原田浩一海外情報室長から、アジア諸国の最近の労働情勢とTPP(環太平洋経済連携協定)交渉(労働分野)の状況について講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。
■ アジアの労働情勢
厚生労働省では毎年「世界の厚生労働(海外情勢報告)」を発行し、世界各国の雇用失業動向、労働施策・社会保障施策の動向等を紹介している。2015年の報告書全文は厚労省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/15/index.html)に掲載している。
今年の特集ではインド、インドネシア、タイ、ベトナムの雇用情勢、職業紹介および失業保険の状況等を紹介している。
各国の雇用情勢について、インドは、非組織労働者が全体の9割を占める。また若年層、特に高学歴者ほど失業率が高い。インドネシアは、近年失業率が改善傾向にあるが(5.9%、14年)、若年層の失業率は高止まりしている(20~24歳で17.5%、14年)。タイは、ASEANの拠点として、企業が質の高い人材を求めるなか、失業率が1%を切るなど労働力が不足しており、人件費が上昇している。ベトナムは、労働力人口が増加し、豊富な若年の労働力を抱えており、失業率は2.2%(13年)と低水準で推移している。
これらの国の職業紹介の状況は、ホワイトカラーについては、企業が求める技能を有する労働者が不足するなか、優秀な労働者はよりよい条件を求め転職する傾向もあり、企業間で人材の獲得競争が発生している。ブルーカラーについては、多数の労働者が存在するが、企業が求める技能を持つ者は限られている。労働者の採用については、民間の職業紹介事業者の利用や各社が直接募集を行うことが多く、公共職業紹介機関の利用は少ない。
失業保険は、インドネシアには存在せず、他の3カ国には失業保険制度はあるが、職業紹介との連携は十分ではない。
今後現地の公共職業紹介機関の充実、職業紹介と失業保険の連携、政府および企業による人材の育成等が求められている。
■ TPP交渉の状況
TPPについては、労働を含む21分野で交渉が進められている。労働分野については、貿易や投資の促進のために、労働基準を緩和することになれば、不当な競争によって各締約国における事業コストが相対的に上昇することになりかねない。
そこで、TPPでは、自国の法律等で1998年の国際労働機関(ILO)宣言で掲げられている権利(結社の自由、強制労働の撤廃、児童労働の廃止、雇用・職業上の差別の撤廃等)を採用・維持することを規定する方向で交渉を進めている。
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講演に続き、第104回ILO総会の模様(6月25日号、7月2日号既報)について報告した。
【国際協力本部】