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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2015年11月5日 No.3245 精神障害の労災認定に関わる判例解説聞く -労働法規委員会労働安全衛生部会・労働法企画部会

経団連は10月21日、都内で労働法規委員会労働安全衛生部会(福田和久部会長)・労働法企画部会(中畑英信部会長)を合同開催した。
会合では、経営法曹会議所属の三上安雄弁護士(ひかり協同法律事務所)から、精神障害の労災認定にかかわる判例である「八王子労働基準監督署長事件」(東京地裁判決・平成26年9月17日)について解説があった。概要は次のとおり。

◇◇◇

この事件は、入社前に精神障害(うつ)により通院していた社員が入社後の過重労働が原因で自殺したことについて、労災の成立を否定した八王子労基署長の決定の取り消しを求めたものである。

当該社員は、平成17年3月に大学を卒業し、同年5月にアルバイトとして採用された。その後、平成18年8月に正社員となり、翌9月にアシスタントマネージャーの職位として店舗責任者に就任し、当該店舗の運営全般にかかる管理業務に従事するようになったが、3カ月後の同年12月9日に自宅マンションの3階から飛び降り死亡した。

なお、当該社員は、大学在学中の平成15年10月15日に病院で「うつ病」と診断されて以降、平成18年12月2日までの間、定期的に通院し診察を受けていた。

裁判所は、業務上の有無を判断する「業務起因性」については、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に従うものとしたうえで、当該社員は「業務以外の原因により発病して治療の必要な状態にある精神障害が悪化した場合」ではなく、社会生活を特段の支障なく送ることができる程度には安定していたとした。

そして、その状態を認定基準にあてはめ、「過去に経験したことがない仕事内容の変更となり、常時緊張を強いられる状態にあった」「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをし、事後対応にもあたった」ことに準ずる心理的負荷が、ともに「強」であると判断し、業務起因性を認め、本件八王子労基署長の労災不支給処分を取り消した。

◇◇◇

この判決について三上弁護士は、職務がアルバイトから正社員に変わったことによる業務上の責任の負担感などに当該労働者の主観に立った拡大解釈がみられ、労災認定に対する保護的な発想が強すぎるのではないかと指摘した。また、本来、労働災害と民事賠償の因果関係は異なるが、実務では、労災認定を理由に民事賠償へ発展する例もあり、本件が基準となると企業側の責任が重くなるとの懸念を示した。

そのうえで今後の企業の対策として、(1)予見可能性に基づいた安全配慮義務に留意すべきこと(2)労働者のメンタル不全防止には声かけと仕事の裁量性を持たせることが重要であること――を挙げた。

【労働法制本部】

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