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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年5月26日 No.3271 介護リスクに備える~介護離職を防ぐ職場づくり<4> -経済的負担と精神的負担/三菱UFJリサーチ&コンサルティング共生社会室室長・主席研究員 矢島洋子

前回は、仕事と介護の両立に向けた働き方を支援する制度(両立支援制度)について解説しました。働き方支援だけでなく、介護費用の助成や相談体制の整備を検討している企業もあるかと思います。今回は、こうした支援のニーズを紹介したいと思います。

◆ 介護の経済的負担

介護にはお金がかかるというイメージが強いことから、企業のなかには、介護費用の助成を行っているところもあります。しかし実態として、親の介護にかかわる費用を負担している人は半数以下です。介護保険制度においては、費用は要介護となる親世帯が負担するのが原則です。自己負担が困難な世帯については、自治体が負担する仕組みになっています。ですので「介護を担う子ども世帯(つまり皆さんの企業の従業員)が負担するのが当然」ということではないのです。

介護保険制度のサービスだけでは足りないだろうという声もありますが、実際に働きながら介護している人のうち、介護保険制度のサービスを限度額いっぱい利用している人は4割程度です。そして、「なぜ限度額いっぱい使わないのか」を聞くと、「そこまでのサービスが必要ないため」という回答が多くなっています。介護にかかる金額も図表のようにさまざまです。施設では、直接の介護費用のほか居住費がかかるため月額10万円を超える人も少なくありません。しかし在宅介護であれば月3万円以内が7割弱を占めます(注1)

もちろん、今の状態がベストというわけではなく、もっとよいかたちで介護サービスを活用した方が心身の負担や仕事への影響が軽減される可能性もあり、企業が助成すべきでない、とまではいえません。ただし経済的支援をするのであれば、仕事と介護の両立をよりよいかたちで実現するためのサービス利用等につながるよう、社員の皆さんに趣旨をよく周知して実施することをお勧めします。

◆ 相談等の精神的サポート

仕事と介護の両立を支援するために企業がさまざまな制度を用意しても従業員がそれを知らず利用しなければ意味がありません。現状は、介護に直面しても、勤務先の人事部門や上司に相談することなく離職してしまう人が多い状態です。仕事と介護を両立している人のうち、勤務先に相談している人は7.6%という調査結果もあります(注2)。一方で、介護は長期にわたることから、介護を乗り切るために勤務先に精神的な支援を期待する人も少なくありません。

それでは、介護に直面した従業員に申し出てもらい、会社の支援方針や支援制度を伝え、不安を軽減するような相談につなげるためにはどうしたらよいでしょうか。仕事と介護の両立に先進的に取り組む企業では、介護に直面する前の従業員を対象に、研修の実施やリーフレットの配布を通じ、会社が「仕事と介護の両立を支援したいと考えていること」「実際に介護に直面した時、まず、上司や人事担当者に相談してほしいこと」「自治体の窓口や地域包括支援センターに必ず相談をしてほしいこと」などを伝えています。また、従業員全体のワーク・ライフ・バランスを推進することで「家庭事情により働き方を変えたい」という希望を表明しやすい環境をつくることも重要です。両立支援制度の充実に加え、こうした取り組みが「介護離職の防止」につながるのです。

在宅と施設介護におけるサービス利用金額/月

(注1)介護保険の自己負担について、昨年8月から合計所得金額が一定水準以上の被保険者を対象に2割負担が導入された。ただし、世帯の負担上限額は現役並みの所得相当でも月4万4400円に設定されている。

(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究(労働者調査)」2013年3月

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