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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年6月2日 No.3272 韓国における国際競争力維持に対する危機感 -日韓のエネルギー政策<下>/21世紀政策研究所研究副主幹 竹内純子

韓国の産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)や全国経済人連合会(全経連)との面談を通じて感じたことは、同国産業界の国際競争力維持に対する強い危機感である。例えば、一時期世界の船舶建造量の約4割を占め、国の基幹産業ともいわれていた造船業の現在受注残量は、10数年ぶりの低水準にあえいでいる。中国やその他新興国と熾烈なコスト競争を繰り広げても勝ち目はなく、先進的な技術力と高いプロジェクト管理能力によって工期を守ることを強みに、国際展開する以外に生き残る道はないとのコメントも聞かれた。しかしその道のりは平たんではない。産業界関係者からのヒアリングで聞かれた「懸念」は主に2つだ。

1つは原子力技術輸出の停滞である。2010年に策定された「原子力発電輸出産業化戦略」においては、2030年までに原子炉80基を輸出し世界の三大原子力輸出国となることを目指しており、2009年にはUAE(アラブ首長国連邦)の4基の新設プロジェクトの受注に成功した。

仏や日米を押しのけての受注成功に大きく湧いたものの、その受注は2015年9月までに同国において同型炉である新古里3号の運転を開始することが前提となっていた。しかし書類偽造問題に端を発する世論の強い批判や作業員の死亡事故によって遅延し、今年1月にようやく試験運転を開始した。産業界関係者からは、「目標の4分の1を達成できればよい方ではないか」との見通しも示され、原子力の国内における停滞が輸出にも悪影響を及ぼしている現状への危機感が感じられた。

もう1つがエコカー部門における「出遅れ」である。最大手の現代自動車は昨年夏に初めてプラグインハイブリッド車を発売し、今夏には電気自動車(以下、EV)の発売に踏み切るという。国内の普及状況に目を転じれば、今年4月時点において、EV普及台数は累計5700台超、充電施設の設置は約300基であるとされる。

政府はEV購入に際して約半額の補助金を支給してその普及を支援しているというが、2009年から昨年までのEVの累積販売台数が5万台を上回り、かつ、公共・家庭用の充電スタンドの数がガソリンスタンドの数を上回ったと報じられている日本と比較すると、まだ普及の初期段階といえよう。国内で普及していない技術について国際市場で多くのシェアを占めるということは現実的ではなく、産業界関係者からはエコカー技術全般における出遅れを懸念する声が聞かれた。

原子力産業や自動車産業はすそ野が広く、国内に厚みのある製造業を維持することにつながる。韓国もわが国と同様、GDPに占める輸出のシェアは、1990年代から2000年代にかけてほぼ倍増したが、一方で多くの原材料や部品などを海外に依存しており、国内で産み出す付加価値が日本ほど大きくないことが指摘されている。この2つの部門の停滞、出遅れに危機感を持つこともうなずける。

しかしこれは他人事ではない。わが国のインフラ輸出の重要な柱とされた原子力産業は長期の停滞を続けており、それに伴うエネルギーコストの上昇は産業競争力を奪っている。政府の描く成長戦略を成功に導くには、こうした足もとの状況を改善することこそ必要ではないだろうか。

【21世紀政策研究所】


日韓のエネルギー政策

  1. 電気コスト・温暖化への対処・原子力に対する世論が課題
  2. 韓国における国際競争力維持に対する危機感

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