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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年7月14日 No.3278 「わが国企業における人事管理の展望」 -学習院大学の今野教授から聞く/雇用政策委員会・労働法規委員会

説明する今野学習院大学教授

経団連の雇用政策委員会(岡本毅委員長、進藤清貴委員長)・労働法規委員会(鵜浦博夫委員長)は6月30日、東京・大手町の経団連会館で合同会合を開催し、学習院大学経済学部経営学科の今野浩一郎教授から「わが国企業における人事管理の展望」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。
講演の概要は次のとおり。

■ 人事管理の課題

日本企業の伝統的な人事管理では、職域分離を前提として、基幹的に働く「無制約社員」と定型的・補助的な業務に従事する「制約社員」について異なる仕組みを構築してきた。しかし近年は、女性や高齢者などの制約社員の増加と戦力化が進んでおり、介護や育児などにより無制約社員から制約社員化する動きもあって、職域分離の前提が崩れている。

こうした変化への対応策としては、職域分離の徹底・明確化、制約社員の積極的な基幹化の2つが考えられるが、現実的には後者しかない。ただし、制約社員の増加は、人事管理の多様化・複雑化をもたらすことから、社員をいかに統合し、公平性を担保するかが課題となる。政府が検討している同一労働同一賃金の議論は、この点に起因する問題である。

■ 人材価値」の決定方法

社員の統合を実現する基本的道具は、自社における「人材価値」の決め方であり、それに基づいて評価・処遇制度がつくられ、社内における均衡の実現が図られる。

「人材価値」とは、会社への貢献の大きさといえる。社員は仕事のプロセスを通じて価値を生み出し、それが会社への貢献となる。貢献を測る要素は、(1)労働能力レベル(2)労働給付能力(3)役割(仕事)の重要度(4)成果の大きさ――の4つとなり、これらを組み合わせて評価することになる。

このうち、成果は「結果価値」、労働能力や労働給付能力は「将来価値」、役割・仕事の重要度は「現在価値」と言い換えられる。実際の評価においてどの価値を選択するかは企業の育成・活用戦略に依存する。加えて、社員のタイプ(無制約社員、制約社員)にもよるため、同じ仕事を担う社員でも、異なる「人材価値」に基づく処遇があり得る。仮に同一労働同一賃金の議論において、「人材価値」を決める要素が1つしかないと決めつけるようなことがあれば問題である。

■ 社員の多様化に適合する報酬管理

企業内の均衡を実現する報酬管理を実現していくためには、(1)業務ニーズ・人材育成のための対応としての大くくりの仕事原則(2)異なる人材活用への対応としての制約配慮原則(3)育成配慮原則――という内部均衡の3原則を組み合わせる必要がある。加えて、社員のタイプにより賃金の市場相場が異なる点を踏まえた(4)市場原則を組み合わせることで、多様な正社員の多様な状況に適合できる報酬管理が可能となる。

対応例としては、現役社員と定年後再雇用された高齢社員のケースが挙げられる。制約社員の高齢社員は、雇用契約期間等が変わるため、短期決済型の賃金制度を適用することになる。そして、制約化部分や仕事の変化部分があることを考慮して賃金が減額される。どの程度下げるかは、賃金制度設計上の問題となる。このように、原則を当てはめることで、合理的に賃金制度の違いを説明することが可能となる。

これまでの日本企業は、総合職の処遇と配置・昇進について将来価値を重視してきた。他方、米国は両方とも現在価値基準重視であったが、この20年ほどで配置・昇進にコンピテンシー(成果につながる行動特性)を重視して将来価値を踏まえる動きがみられる。日本においては、処遇の決定基準について将来価値と現在価値を組み合わせる動きが出てきており、新型の人事管理に移行しつつあるといえる。

【労働政策本部】

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