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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年8月4日 No.3281 夏季フォーラム2016 -各セッションの概要

経団連は7月21、22の両日、長野県軽井沢町のホテルで「夏季フォーラム2016」(議長=友野宏副会長)を開催した(前号既報)。今号では各セッションの概要を紹介する。

第1セッション
「第4次産業革命は日本経済成長の契機になるか―日本産業復活のカギはIoT」
吉川良三東京大学大学院経済学研究科ものづくり研究センター特認研究員

講演する吉川氏

夏季フォーラム第1セッションでは、東京大学大学院経済学研究科ものづくり研究センター特任研究員の吉川良三氏から「第4次産業革命は日本経済成長の契機になるか―日本産業復活のカギはIoT」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。講演のポイントは次のとおり。

(1)IoTの活用と第4次産業革命

ものづくりとは、製造業のみならず、すべての産業を指すものである。IoT(Internet of Things)ではなく、IoEと呼んでもよいかもしれない。Eは「everything」のEである。それはハードを含めたソリューションを、ユーザーのニーズに応じて的確に提供するための一連のプロセスを指す。

日本は製造業の生産性をさらに向上させる必要がある、という話を最近よく耳にする。しかし実際のところ、製造業の生産性に関して日本はかなり高くなっている。むしろ今の日本に必要なのは、業種を問わずIoTを活用して、さまざまな問題を解決するための新たなビジネスを模索することである。

第4次産業革命とは、衣・食・住ではなく医・職・住民における構造改革を、IoTを通じて目指すことである。その際、地方創生・エネルギー改革・社会保障改革・雇用改革という4つの軸を常に念頭に置くことも重要である。また、グローバルな構造変化も見逃してはならない。これまでは、先進国の狭い市場を奪い合っているだけであった。しかしこれからは、新興国も含めた世界中に市場が広がる。例えば製造業であれば、製品から機能をうまく引き算し、地域差を考慮して効果的に製造を行うべきである。

(2)BCGトライアングルによる改革の推進

今後さらに改革を進めるには、BCGのトライアングルが重要となる。BCGとは、ビジネス(企業)・コモンナー(生活者)・ガバメント(行政)の頭文字を取ったものである。特に、行政の参画なしには構造改革が活性化することはない。行政は「ばらまき」を行うのではなく、ビジネスの現場に自ら入っていかなければならない。特に地方の行政が、IoTを活用したビジネスに参画することが重要である。また、各種規制の緩和も重要である。例えばビッグデータについて日本では、個人情報保護の点を含め、強い規制が行われている。こうした環境を改善することも不可欠である。

(3)人材育成の必要性

第4次産業革命に対応するには、人材育成についても考えなくてはならない。出る杭を打つのではなく、「抜いて育てる」という気概が必要である。打ってしまった杭は二度と出てこない。見たくないものも見て、聞きたくないことも聞く。そうした考え方でなければ、グローバルには通用しない。「見ざる・言わざる・聞かざる」では通じない。また、「自我作古」ができるリーダーを今こそ育成すべきである。単なるマネージャーではなく、大局観のあるカリスマ的リーダーを育成しなければならない。

◇◇◇

講演後は、IoTの具体的活用や今後必要な規制緩和などについて活発な意見交換が行われた。

第2セッション
「世界情勢と日本の外交安全保障政策」/宮家邦彦外交政策研究所代表

講演する宮家氏

夏季フォーラム第2セッションでは、宮家邦彦外交政策研究所代表から「世界情勢と日本の外交安全保障政策」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。講演のポイントは次のとおり。

(1)歴史を常に意識する必要性

国内外で重要課題が山積するなか、将来世代が今を振り返った時に、「当時の人は正しい判断を行った」と言うことができるよう、われわれ現役世代は大局的かつ戦略的な判断を行う責任がある。その判断を行う方法として私は、外交官時代の上司である岡崎久彦元タイ日本国特命大使から教えてもらった「歴史を常に意識する」という観点を大切にしている。

「歴史を常に意識する」とは、さまざまな歴史的エピソードが、その後の国際情勢の流れを変化させる「ドライバー」なのか、それとも単なる「エピソード」なのか、「トリビア」にすぎないのかという基準で分類するということである。ドライバーのなかには、大きく国際情勢の流れを変化させる「メジャードライバー」があり、国際情勢を理解するうえでは、このメジャードライバーは何かを見分けることが重要である。その具体例として、2014年のロシアによるクリミア編入、イラン核合意、中国の南シナ海の人工島問題、米国のトランプ旋風などが挙げられる。

(2)ダークサイドの勃興

最近のメジャードライバーの傾向として、冷戦時代の共産主義や修正資本主義、冷戦後のグローバル化やマーケット至上主義とは大きく異なる特徴を有している。この理由としては、冷戦後、経済成長のみを重視する施策が進められたことにより、格差の拡大や社会的弱者の不満が増大したためだと考えている。現在、この国内の一部の層による憤怒と不信は、エスタブリッシュメント層に向けられ、英国のEU離脱等、政治の地殻変動を引き起こす要因となっている。私はこの一部の層、すなわち排外主義、一国主義、民族主義などの思想を有した層を「ダークサイド」と呼び、その動きを注視している。

また同時に、中国やロシアなどで、第2次世界大戦前後のように、国際秩序に挑戦する動きがみられる。このように、「歴史は完全に繰り返さないが、韻を踏む」ことを意識する必要がある。

(3)わが国の将来に向けた戦略

このように、中国の南シナ海の問題、中東の不安定化、欧米に潜むダークサイドの勃興が生じるなか、わが国にはまず強力な政治のリーダーシップが求められる。そのため、先の参議院議員選挙において、豊富な内政・外交経験を有する安倍政権が安定基盤を築くことができたことは国内だけでなく、対外的にも大きなメリットであったと思う。

また、安倍政権によって、日本のなかのダークサイドが落ち着いていることは、わが国の力の源泉となっている。引き続き適切にダークサイドをコントロールしていくため、生活の厳しい若い人などに対し、今一度上手に所得再分配を行う必要がある。

そのほか、日本型の移民制度の構築や米国と連携した海洋同盟の締結、政治を理解する経営者と経済を理解する政治家等が求められる。

◇◇◇

講演後は、参加者との間で今後のEUの動向や日中・日ロ関係の展開策、米国の大統領選挙の見通し等について活発に意見交換が行われた。

第3セッション
「Society 5.0の創出」「地域活性化による経済成長」「グローバリゼーションによる市場の拡大」テーマに分科会形式で討議

夏季フォーラム第3セッションでは、GDP600兆円経済を実現するうえでカギとなる「Society 5.0の創出」「地域活性化による経済成長」「グローバリゼーションによる市場の拡大」をテーマに、参加者間で分科会形式により討議を行った。主なポイントは次のとおり。

■ 第1分科会「Society 5.0の創出」(議長=中西宏明副会長)

中西副会長(第1分科会議長)

冒頭、中西副会長から、「Society 5.0の創出に向けた政府の動きも活発化しており、経団連として具体的なアクションに結びつけていきたい。本日は企業間、官民で協調するテーマは何か、政府への要望、国民がすべきことについて議論を行いたい」との発言があった。

続いて問題提起として、岩沙弘道審議員会議長から、「Society 5.0は、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)、ビッグデータの活用により、都市の諸機能をスマート化するものである。そのためには、規制の緩和など、連続的なイノベーションを起こすための社会基盤の構築が不可欠」、下村節宏審議員会副議長から、「Society 5.0実現のカギは、競争と協調の仕組みをつくることである。各分野で共有・活用できる情報を協調領域として整備することで、個々の競争力の向上と社会的課題の解決が可能になる」、内山田竹志副会長から、「Society 5.0を国家戦略として推進していく体制の整備が不可欠であり、産学官連携のさらなる促進を図るとともに、Society 5.0に関する社会・国民の理解を得ていくことが重要である」との指摘があった。

これらを踏まえ、意見交換では、Society 5.0の実現に向けては、「国際規格と国内規格の基準の統一が必要」「特区の活用により具体的なプロジェクトを進めることがブレークスルーを引き起こす」「データの所有者やセキュリティ体制の構築についてさらなる検討が必要」といった意見が出された。

■ 第2分科会「地域活性化による経済成長」(議長=古賀信行副会長)

古賀副会長(第2分科会議長)

まず、古賀副会長から、「経団連では、地方創生に向けたアクションプログラムを策定し、実行しきた。ここでは地域におけるしごとの創出、発展するまちづくり、ひとの育成・定着に資する施策を中心に議論を行いたい」と述べた。

続いて冨田哲郎審議員会副議長が「GDP600兆円経済の実現を図るうえで、地域と一体となって活性化に取り組むことが不可欠である。観光の活性化に向けては、サービスのサプライサイドの生産性改善への取り組みも重要」と指摘、宮本洋一審議員会副議長から、「発展する『まち』づくりを進めるためには、コンパクト化とネットワーク化、エリアマネジメント(広域連携)が重要。そのためには、大学、意欲のある自治体、企業、住民のすべてが参画する共同のプラットフォームの構築や先進的な自治体での取り組みの具体例を増やすことが必要である」、浅野邦子審議員会副議長から、「真のコンパクトシティ実現のためには、人口40~50万人の中核都市の魅力を上げると同時に、過疎地をより過疎化していく『積極的過疎化』の取り組みを進めることも重要である。また、仕事と子育てとの両立を図るために、保育所にかかる規制の大幅な緩和が必要ではないか」との発言があった。

これらを踏まえ、意見交換では、「地域を活性化していくうえでは、大都市と地域、異業種・同業種、産学官などにおける『連携』を進めることがカギ」「企業と地方自治体が積極的に協力することが重要」「道州制の早期実現による広域連携の推進、地方分権改革も不可欠」といった意見が出された。

■ 第3分科会「グローバリゼーションによる市場の拡大」(議長=飯島彰己副会長)

飯島副会長(第3分科会議長)

はじめに飯島副会長から、「世界で『内向き』な姿勢が強まる時だからこそ、変化を恐れず、外に目を向けて改革を推進していく必要がある。本日は経済連携の推進と経済外交の積極的展開、そしてその基盤となる人材育成を中心に議論を行いたい」との発言があった。

これに続いて、中村邦晴審議員会副議長から、「反グローバリズム・保護主義の伝播を断ち切り、メガFTA推進に弾みをつけるためにも、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定参加各国が批准し、早期の発効にこぎ着けることが重要。経済界を挙げて、早期批准に向けた機運を高めていくことが重要である。デジタル貿易の普及に向けた国際的なルールづくりも不可欠だ」、永易克典副会長から、「インフラ輸出の拡大に向けて、官民が一体となってインフラの質の高さを測る指標の整備を行うことが必要である。公的金融のさらなる整備や活用も重要である」、岡本毅副会長から、「グローバル社会で活躍し、既成概念にとらわれずイノベーションをリードする人材を育成するためには、考える力、論理的思考力を養うことが重要である。その基盤となるのが、日本文化や歴史への理解、国語力である」として、それぞれ問題提起があった。

これらを踏まえ、意見交換では、「TPP協定は地域活性化にも資するものであり、批准に向け行動を起こしていくことが必要」「国境をまたぐデータのやり取りについて、日本主導で国際的なルールづくりをすべき」「今後、海外のローカル人材を含めたグローバル人材の育成という視点も重要」との発言があった。

【政治・社会本部】

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