Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年12月1日 No.3295  「人工知能の現在と将来、それは産業・社会の何を変えるか」 -21世紀政策研究所第121回シンポジウム

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は10月21日、研究プロジェクト「人工知能の本格的な普及に向けて」(研究主幹=國吉康夫東京大学教授)の活動の一環として、都内で第121回シンポジウム「人工知能の現在と将来、それは産業・社会の何を変えるか」を開催した。

■ 基調講演「日本の産業に与えるディープラーニングのインパクト」
松尾豊東京大学特任准教授

まず、東京大学特任准教授の松尾豊氏が基調講演を行った。松尾氏は、「ディープラーニング」という技術が、主に認識、運動の習熟、言語の意味理解の3つを可能にし、破壊的なイノベーションを起こしていると述べたうえで、日本がAI(人工知能)に対して取り組むべき方向として、産業ロボット、建設用機械、農業用機械、食品加工機械などにAIを用いた認識、運動の習熟といった技術を取り入れる路線がよいとの考えを示した。

■ パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、國吉氏をモデレーターに、同研究プロジェクトの委員である東京大学特任教授の中島秀之氏、松尾氏、作家の瀬名秀明氏、NTTデータの樋口晋也氏、経団連産業技術本部長の続橋聡氏が登壇し、AIの定義、期待、不安、導入の効果、普及後の社会などについて活発な討議が行われた。

はじめに樋口氏は、AIに抱くイメージは人によって違いがあり、(1)従来技術を活用したAIビジネス(2)ディープラーニングなどの最新技術を活用したAIビジネス(3)世界最先端のAI研究(4)さらにその先の「シンギュラリティ」のような夢の話――の4つに大別できるとの見解を示した。松尾氏は、AIの技術のなかに機械学習があり、機械学習の1つにディープラーニングがあるなどのAIを構成する要素の全体像を説明した。

次に、AI活用への期待として樋口氏は、利益を上げるという観点から、(1)業務の改善(2)サービス化の推進(3)ビジネスのスケールアウト(4)リアル世界のインテリジェント化――の4つの方向性を挙げた。一方、中島氏は、従来は形式化しない限りコンピューターで実行できなかったものが、ディープラーニングにより暗黙知のまま扱えるようになることの重要性を指摘した。続橋氏は、Society 5.0に示される社会を築くためには、現実社会とサイバー空間をうまく活用することが重要であり、AIはその頭脳となると述べた。

続いて、AIの暴走、AIが意思を持つことなどに対する不安・懸念について國吉氏は、暴走防止のためにもAIには意識に相当するメカニズムが必要であるとの見解を示した。また、中島氏は、AIは「与えられたゴールに向かい、いかに実行するか」は考えられるが、「何をすべきか」を考え出すことはいまだできないと指摘した。

次に、AIの導入に関して、業務への試験導入の事例、Googleの「アルファ碁」の開発事例などをもとに導入・開発の期間・コストスケールを示した。また、松尾氏は、AIを活用した最終製品を生産する「学習工場」の概念について説明し、コスト削減への活用だけでなく、新しい製品をつくり、売り上げることの重要性について指摘した。

最後に、AIが普及・成熟した社会に向けての課題について瀬名氏は、仕事には(1)人間にしかできないこと(2)人間にもできること(3)ロボットにしかできないこと(4)ロボットでもできること――の4段階があり、役割分担をデザインできるか、どう受け入れられるかが重要になるとの考えを示した。また、今後AIをつくり出す高度な技術を持った人材と、AIを使いこなして課題を解決する能力を持った人材が重要になると指摘した。

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シンポジウムの詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】