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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年2月23日 No.3305 WIPOのガリ事務局長と懇談 -知的財産委員会企画部会・国際標準化戦略部会

経団連の知的財産委員会企画部会(堤和彦部会長)と国際標準化戦略部会(江村克己部会長)は1日、東京・大手町の経団連会館で世界知的所有権機関(WIPO)のフランシス・ガリ事務局長との意見交換会を開催した。

冒頭、堤部会長は、Society 5.0の実現に向けたわが国の取り組みについて紹介し、急速な技術革新に対して現行の知的財産制度が合致していない点があることを指摘した。そのうえでイノベーション促進の観点からは、改正対応を急がず、当面は契約ベースで対応することが最適ではないかと述べた。

江村部会長は、データの保護と利活用に関する現状と課題となるいくつかの“壁”について説明し、データ利活用に対しては、企業の競争力向上だけではなく、個人の生活の利便性の向上や社会課題の解決の切り札としての期待が寄せられていると述べた。あわせて、Society 5.0実現部会で検討されている提言についても紹介があった。

また、日本知的財産協会(JIPA)の上野剛史参与は、前日に行われたJIPAシンポジウムでのパネルディスカッション「ビジネス革新と変容する知財活動」での議論を紹介したうえで、知財戦略がビジネス戦略・経営戦略そのものに密接にかかわるようになった現状を指摘した。

これらのプレゼンテーションを踏まえ、ガリ事務局長からは次のようなコメントがあった。

発言するガリ事務局長

Society 5.0(超スマート社会)の実現における課題とされる「法制度の“壁”」は、前段階にあたる情報社会への移行においても課題とされた。これは例えば著作物・創作物がインターネットを介することで、ユーザー同士で流通・利用される形態が急増したことなどが顕著に示すように、マーケット主導でビジネスモデルが変革したため、法制度の対応が追いつかないことに起因する。

こうしたなかで重要になってくるのは「契約」である。かつて「古代の法律」(注)で「社会の発展は“権威”から“契約”への移行をもたらす」とされたとおり、コミュニティーのトップがすべてを規律する原始社会から発展し、個人や企業がそれぞれ当事者間の合意に基づいて契約を結び、相互に規律していくようになった。法改正のスピードが技術革新にますます追いつかなくなるSociety 5.0の時代においては、これがより顕著になるだろう。

契約は「社会受容の壁」の打破においてもカギを握る。Society 5.0において実現する財やサービスが国民に大きなメリットをもたらすことは、その財やサービスがコミュニティーのトップから一方的に提供されるのではなく、自らが当事者として契約を締結し、利益を享受することになれば、理解が深まっていく。

技術革新がわれわれの社会や生活を豊かにしていく一方、世界的には政治の混乱がみられ、一部の国では保護主義が台頭し経済に不安を与えている。しかし、私企業が国際化を遂げているいま、保護主義はその国の企業の成長や競争力向上を妨げることになるため、グローバリゼーションを止めることはできないだろう。とはいえ、そのペースを減速させたり変質させたりすることはあり得る。各国の産業界は保護主義を警戒し、力強く抵抗してほしい。

(注) Marie.H, 1861, "Ancient Law", United Kingdom: John Murray

【産業技術本部】

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