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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年3月30日 No.3310 「家庭の社会・経済的背景と学力格差」 -お茶の水女子大学の耳塚教授から聞く/教育問題委員会企画部会

経団連の教育問題委員会企画部会(三宅龍哉部会長)は14日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、お茶の水女子大学の耳塚寛明教授から、家庭の社会・経済的背景と学力格差の相関関係について説明を聞くとともに意見交換を行った。概要は次のとおり。

■ 「子どもの学力格差」に注目すべき理由

学校教育や職業世界において、能力と努力によって得るメリット(業績)を持った者たちが成功し、高い地位につく社会(メリトクラシー)は、理想社会の名に値するかどうかはわからないが、前近代社会の身分社会と比較すれば、少なくとも生まれの束縛から解放されるといった側面では平等な社会と思われる。

しかし、子どもの学力を決定する要因として、親世代の格差が子世代へと相続され、人生のスタートラインにおいて機会が平等に開かれているわけではないという社会構図があるならば、誰にでも機会が開かれた競争という公正な社会の前提が突き崩されてしまう。その意味で子どもの学力格差はさまざまな格差のなかでも、特に注目されるべき重要な問題であるといえる。日本では子どもの学力測定データを入手することが非常に困難であるという理由から、「学力の社会学的研究」はほとんど未知の領域であったが、その重要性が認知され始めた2002年ごろから教育社会学者による研究が徐々に増加している。

■ “家庭の社会経済的背景”と“子どもの学力”の相関関係

私を中心としたお茶の水女子大学の研究グループが実施した調査からは、地域により学力形成過程に多様性はあるものの、保護者から得られる家庭的背景のみによって子どもの学力は相当程度説明でき、さらには子ども自身の努力の程度を現す「勉強時間」よりも「家庭的背景」の方が大きい影響力を持つことが読み取れる(図表参照)。

家庭的背景の影響力を詳しく分析すると、(1)学校外教育費支出(2)保護者の子どもに対する学歴期待(3)世帯所得(4)母親の学歴――の順に大きいこともわかり、金銭にまつわる直接的な「経済資本」だけでなく、両親の所有する蔵書の種類などに代表される「文化資本」も重要な指標であることが示されている。

家庭の社会・経済的背景と学力の関係(お茶の水女子大学による調査)

■ 高い教育成果を挙げる取り組み

とはいえ、同程度の家庭的背景の児童生徒が通う学校と比較して、学校の平均学力が高い学校も、確実に存在する。お茶の水女子大学の調査では、高い成果を挙げている学校の方法論は驚くほど共通しており、その特徴として、当たり前のことを継続し、徹底することが重要であるとみて取れる。例えば、高い成果を挙げている学校では、宿題形式の「自学ノート」(注)に教員が必ず目を通し、翌日に評価コメントを書いて生徒に返却することを徹底している。

しかし、こうした取り組みは教員への負担が大きくなり過ぎるため、やむなく実践できない学校も少なくない。

■ 学力格差解消への道

学力格差はもはや教育問題ではなく、社会問題である。格差が家族や地域を通じて社会構造自体に由来するからである。そのため、所得再分配や雇用、また教育機会を保証する経済的支援など、根本的な原因に働きかける構造的療法を実施することが決定的に重要である。

他方、対症療法としての教育界やNPO法人などの取り組みも必要である。家庭学習指導のあり方や、言語に関する学習規律などに対する学校内での支援を重視した体制づくり、また特に不利益の大きな子どもたちへの居場所づくりなどには継続して取り組むべきである。その際、教員の加配など、そうした取り組みを可能にするための教育行政による条件整備が特に重要である。

(注)自学ノート=「自主学習ノート」や「自勉ノート」などともいう。生徒自らが課題を決めて取り組む宿題。言語操作の基礎の育成に非常に有効で、教員が学習の内容と方法を同時にチェックでき、また生徒の日々の変化もみて取れるなどの点が認知されているアクティブ・ラーニングの代表例

【教育・スポーツ推進本部】

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