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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年7月6日 No.3322 座談会「プロ棋士から見たAIと人~これからの経営・社会への示唆」を開催 -21世紀政策研究所

21世紀政策研究所(三浦惺所長)は6月14日、研究プロジェクト「人工知能の本格的な普及に向けて」(研究主幹=國吉康夫・東京大学教授)の活動の一環として、将棋棋士の羽生善治九段、囲碁棋士の王銘琬囲碁棋士の大橋拓文六段を招き、都内で座談会「プロ棋士から見たAIと人~これからの経営・社会への示唆」を開催した。

江間有沙・東京大学特任講師をモデレーターに、國吉研究主幹、同研究プロジェクトの委員である中島秀之・東京大学特任教授、松尾豊・同特任准教授、作家の瀬名秀明氏が登壇し、羽生九段、王九段、大橋六段と「AIと人の違い」「将棋と囲碁において人はAIとどう付き合うか」「AIで社会はどう変わるか」の3つのテーマについて意見が交わされた。

■ AIと人の違い

まず大橋六段が、囲碁において、AIからはストーリーが感じられない点が人との大きな違いであり、人はお互いの意図を推測し合いながら進めるのに対して、AIはそこに至るまでの手を気にせずにその局面の最適手を取ると説明した。

次に王九段は、人の判断は主観的で、目的ありきのトップダウン型で矛盾だらけであるのに対して、AIの判断は客観的で、数字を積み重ねるボトムアップ型で無矛盾であると述べた。また、碁を打つ目的は人もAIも勝つことであるが、人はその上に「幸せになりたい」という目的があるため、同じ勝利を目的としているようでも本質的には違うとの見解を示した。

続いて羽生九段は、AIには恐怖心がないことが、人とAIの思考の一番の違いであり、信じられないくらい大胆な将棋を指すことも大きな強さの要因ではないかと指摘した。

■ 人はAIとどう付き合うか

羽生九段は、将棋界では、人が指す将棋とAIが指す将棋は違うものとしてこれまであまりかかわりを持たなかったが、最近はAIが発見した手筋をプロ棋士が積極的に取り入れ、定跡やセオリーは大きく変化したと説明した。一方、AIは便利なツールではあるが、皆が同じAIで勉強をして同じ手を指すならば、人が指しているのかAIが指しているのかわからなくなり、棋士としての個性や独自性をどう出していくのかという問題を突きつけられていることも指摘した。

次に王九段は、AIの打ち筋は強いからといって参考になるとは限らず、自分の実力に近いところを見計らって参考にすることが重要だと指摘した。

続いて大橋六段は、囲碁AIが1年足らずで急速に強くなったことで、棋士がAIとの距離感がわからず「AlphaGo」(AI)の手をまねしたり、一生懸命研究したりするという事例が生じたことを紹介。そのうえで1年先のAIはさらに進化して、過去の手とはまた別の手を打つため、囲碁に限らず現在のAIの判断だけを妄信するのは問題であり、冷静な目を持つことも重要だと指摘した。

■ AIで社会はどう変わるか

羽生九段は、ある場面でAIはその処理能力を前提として驚異的なソリューションを出すかもしれないけれども、その提案が自分にとって実行可能な選択肢なのか否か、人が選別することが必要になると述べた。また、将棋では同じ局面でもAIは異なる判断を下すことがあるため、社会にAIが浸透する際、一定の答えが出ずに混乱を生む可能性があると指摘。その解決方法として、王九段が、複数のAIによる多数決で判断してはどうかと提案した。

また大橋六段は、人は人間同士やAIと相談することでばらつきの少ない優れた判断ができる可能性があり、相談する側のスキルが重要になるとの見解を示した。

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座談会の詳細は、21世紀政策研究所新書として刊行予定である。

【21世紀政策研究所】

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