Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年10月26日 No.3336  (地球温暖化対策)カーボンプライシングに関する諸論点<5>

カーボンプライシングに関する議論が再浮上し、関係各方面で検討が行われていることから、本稿で7回にわたり論点を解説している。
今号ではこれまで何度も議論されてきた排出量取引の導入の是非について解説する。

■ 排出量取引は自主行動計画よりもコスト安なのか

日本で排出量取引を導入すべきなのか。欧州では産業部門、電力部門がEU―ETS(EU域内排出量取引制度)のもとにおかれ、日本では「経団連自主行動計画」 「経団連低炭素社会実行計画」で対応しているが、両者を比較しながら考えてみよう。

EU―ETSは世界最大の規模を誇り、運用実績も長いが、余剰クレジットと排出権価格の低迷が続いており、成功事例とはいい難い。競争力強化、雇用創出、クリーン技術の導入、イノベーションいずれの面でも役に立たなかったという評価もある。

そもそも排出量取引は与えられた温室効果ガス目標の達成を一義的な目標とする1E(環境保全)に立脚したツールである。これに対して自主行動計画は温室効果ガス削減のみならず、当該企業、業界の国内外の市場展開、エネルギー戦略、技術開発を含む総合的な中長期戦略、いわば3E(経済効率、エネルギー安全保障、環境保全)のバランスを考慮した企業の経営判断である。

排出量取引を導入する場合、国際競争力にさらされた産業への無償配賦が不可欠となるが、EU―ETSでは欧州委員会と産業界との間にはベンチマークの水準と活動量をめぐって膨大な政治的・行政的な調整コストが発生している。政府が、今後の活動水準を適切に把握して割当を行うことは不可能である。他方、自主行動計画の場合、割当が存在しないため、割当量決定に伴う政治・行政コストは発生せず、割当量に起因する棚ぼた利益やリーケージのリスク等の問題も発生しない。PDCAサイクルを通じて環境変化にも柔軟に対応することが可能である。

自主行動計画参加企業の多くは生産プロセスにおける省エネやCO2削減努力に加え、物流の環境負荷低減、最終製品の省エネに貢献する中間財の提供、省エネ・環境技術の普及にかかる国際協力など、企業、部門、国境を越えた取り組みを展開しているが、企業や工場の生産段階の排出量に枠を設ける排出量取引ではこうした部門横断的、国境横断的な発想と両立させることができない。

また排出量取引のもとでは対象事業者はクレジット売買を含む短期の目標達成に注力することになり、変動するクレジット価格も相まって長期・高リスクの技術開発投資へのインセンティブにならない。

■ パリ協定ではキャップ導入を要求せず

京都議定書のもとでは削減目標の達成は条約上の義務であったが、強制力を有する排出量取引は導入されなかった。パリ協定のもとでは目標達成が条約上の義務となっていない。にもかかわらず、排出量取引のような強制的措置を導入することは不合理である。

国際競争にさらされていない電力部門を対象に電力原単位目標に基づく電力排出量取引を導入すべきとの議論が生ずるかもしれない。しかし電力原単位目標はボトムアップで策定したエネルギーミックスに基づくものであり、これを義務づけた場合、ボトムアップで策定した目標がトップダウンの目標に変質したことを意味する。原単位目標を義務づけたとしても、原子力発電の再稼働・運転期間延長が促進されるわけではない。再生可能エネルギーのさらなる上積みによる電力コストの大幅上昇、産業競争力の低下や海外クレジット購入による国富の流出を招くだけである。

このように考えるとわが国において排出量取引を導入するメリットは見いだせない。ドイツに倣ってFIT(固定価格買取制度)を導入してコスト急騰に直面した教訓もある。国際的な潮流だからという理由をもって、わが国も導入すべきとするのではなく、排出量取引が抱える欠点やわが国の事情等を総合的に勘案する必要があろう。

次号では、大型炭素税を導入すべきか検討する。

【21世紀政策研究所】

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