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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年1月25日 No.3347 COP23と2018年の地球温暖化対策動向/(1)COP23の結果とその評価 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

2016年11月に発効した地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定については、20年実施に向けた詳細ルールの策定交渉等が、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)の下におかれた特別作業部会や補助機関会合で進められている。

昨年11月6~18日にドイツのボンで開催されたCOP23に参加し、詳細ルールの策定交渉の状況を確認するとともに各国政府・産業界関係者等と意見交換を行った。それを踏まえ、COP23と今年の地球温暖化対策の動向および日本へのインプリケーションについて3回にわたり解説したい。

■ 詳細ルール交渉はいまだ「言いっ放し」状態

今回のCOP23は、パリ協定の詳細ルールの策定交渉とグローバルストックテーク(進捗評価)の前哨戦として18年に行われる促進的対話の進め方を合意することを目的としていた。

パリ協定は合意されたが、実際に運用するためには国別削減目標(NDC)に盛り込まれる情報やプレッジ&レビューの進め方等、詳細ルールが必要になる。まさに「悪魔は細部に宿る」である。詳細ルールは今年12月にポーランドで開催されるCOP24で合意を目指しているため、COP23はもともとストックテーキングCOP(論点整理や進捗状況の確認をする中間会合)と目されていた。事実、COP23での結論は「詳細ルールに関するこれまでの議論をまとめたインフォーマルノート(非公式文書)をテークノートし、議長が来年(18年)4月にリフレクションノート(各国の追加意見を反映した文書)を出す」といった手続きに関するものだ。結論文書に添付されたインフォーマルノートは各国の立場をすべて盛り込んだ250ページを超える膨大なものであり、内容面の収斂はまったくない。4月に議長が出すリフレクションノートが交渉テキストの形態をとるかどうかも不明であり、仮にそうだとしても加盟国があれこれコメントして分量が膨らむことになろう。

このため、COP24のいずれかのタイミングで議長国ポーランドが落としどころを注意深く見極めた議長テキストを出すことが必要になる。問題はポーランドがパリ協定合意の際にフランスが発揮したような外交的手腕を発揮できるかどうかだ。ポーランドはCOP議長を過去2回(08年ポズナン、13年ワルシャワ)務めているが、いずれも大きな合意が予定されるCOPではなかった。詳細ルールの合意が期待されているCOP24ははるかに難しい。

今年の交渉の進み方いかんでは、12月のCOP24において詳細ルールに合意できない可能性も排除できない。もちろん、現時点でこの可能性を表立って口にする者はいないが、パリ協定は20年以降の枠組みを想定してつくられたものであり、ルール合意が19年にずれ込んだとしても大きな問題はない。ちなみに19年のCOP25の議長国は交渉巧者のブラジルである。

■ 交渉の大きな構図

今次交渉の大きな構図は「先進国と途上国の差異(二分論)を維持し、CO2削減関連の負担を最小限にし、あらゆる局面で先進国からの支援を引き出したい途上国」と「共通のフレームワークのもとで途上国にもCO2削減努力を求め、途上国への支援負担を抑制したい先進国」の対立にある。したがって、例えば先進国は途上国への支援強化を受け入れ、途上国は先進国との差異化を最小限にしたレビューを受け入れる等のパッケージディールでないと解決しないと考える。COP23で途上国は、20年までの資金援助の進捗状況のレビューや公的資金援助の予見可能性を含め、さまざまな資金問題を強く打ち出したが、これは最終的なパッケージの中心軸を自分たちに有利にすることをねらったものだ。米国が資金援助に背を向けるなかで、途上国支援を交渉材料にした決着は決して容易ではない。

■ 促進的対話で高まる目標引き上げ圧力

タラノア対話といわれる18年の促進的対話については大まかな進め方が合意された。今年の9月ごろに発表されるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃特別報告書がインプットとなるため、各国の現在の目標ではまったく不十分という議論が生じ、目標引き上げ圧力がかかることになろう。また20年以前の進捗のストックテークも行われるため、途上国は先進国の資金支援拡大の遅れを追及することとなろう。

このようにパリ協定は合意されたものの、引き続き厳しい攻防が続いており、18年は「温暖化戦線波高し」が予想される。

次号では、パリ協定離脱を表明した米国のCOP23での交渉関与姿勢等を解説する。

【21世紀政策研究所】

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