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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年1月25日 No.3347 トランプ現象の底流~『Hillbilly Elegy』と『The Glass Castle』 -ワシントン・リポート<26>

ワシントンでは、税制改正法案成立を経て、株高のなかで年明けを迎えたものの、連邦予算の失効など混乱が起きている。他方、人気女性司会者オプラ・ウィンフィリーの2020年大統領選民主党候補者待望論が突然注目を集めるなど、にぎやかさを増している。

そうしたなか、中間選挙から大統領選へ進む過程におけるトランピスト(トランプ支持者)の動向が注目されており、トランプ現象の背景を物語るとされる2冊の本が、ニューヨーク・タイムズのベストセラーにランクされてきた。

そのうちの1冊は、アパラチア地方に暮らす、アメリカの繁栄から取り残された白人たちを描いた『Hillbilly Elegy』で、大統領選のさなか、16年6月に出版された。

最近、その筆者J.D.ヴァンス氏が、この夏のオハイオ州上院議員補欠選挙に立候補するとのうわさが流れた。彼自身、16年のインタビューで「政治活動に入るよりコミュニティーの一員でありたい。しかし、多くの人から打診を受けるので、10年後はやるかもしれない」と述べており、今回、マコーネル共和党院内総務の打診を受けて本人も真剣に検討していると報じられた。ヴァンス氏はトランプ現象の背景を世に示したといわれる一方、彼自身は必ずしもトランプ支持ではないとも報じられており、その対応に関心が高まった。結果的には、家族の事情等で立候補の断念を表明したようだが、「忘れられた人々」に焦点を当てたトランプ現象の余波ともいえる。

もう1冊は、『The Glass Castle』で、定職に就かないアルコール依存症の父親と絵描き願望の母親のもとで育ち、ニューヨークで記者となった女性の回想録で、ウェストバージニア州のウェルチという田舎町が舞台として出てくる。トランプ現象の起こるはるか前の05年の出版で、07年には『ガラスの城の子どもたち』のタイトルで日本語翻訳本も出ている。

一見、育児放棄ともみえる両親のもとでたくましく生きる主人公とその兄弟姉妹の愛と涙の物語だが、父親の言動は、社会の矛盾や偽善に反発する不器用な人間像を示している。先の大統領選では「政治的な正しさ」よりも本音的なものを述べる候補がオーセンティックと受け止められ人気を博したが、その予兆が05年に出ていたともいえる。17年には映画化されさまざまな反響を呼ぶなど、予兆であるとともに余波にもなっているといえる。

ワシントンでは日々さまざまなことが起きているが、他方、『Hillbilly Elegy』でいえばアパラチア、『The Glass Castle』でいえばウェストバージニア州のウェルチというような地方の現場にもアメリカ人の多様な生活がある。それらが影響し合って米国の政治が成り立っており、取り残されつつある人々に背を向け続けることへの反発と憤りが大きなエネルギーとなっているとつくづく感じる。

(米国事務所長 山越厚志)

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