Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年1月24日 No.3393  2019年版経労委報告を公表 -働きがい向上とイノベーション創出 by Society 5.0

記者会見する工藤副会長・
経営労働政策特別委員長

経団連(中西宏明会長)は1月22日、春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスを示す「2019年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」を公表、記者会見を行った。同委員会の委員長を務める工藤泰三副会長は、記者会見の冒頭、「社員の働きがいを高め、持てる能力を最大限に発揮させ、イノベーションが沸き起こるような企業・組織を目指して、Society 5.0時代にふさわしい働き方や処遇の実現に向けた諸課題を整理した」と説明。19年版報告の副題を「働きがい向上とイノベーション創出 by Society 5.0」とした思いを語った。
報告書の主なポイントは次のとおり。

■ 第1章 働きがいを高める働き方改革と労働生産性向上

社員が働きがいをもって仕事に打ち込める職場環境をつくるべく、働き方改革を推進しながら、労働生産性向上と一体的に取り組んでいく必要があると指摘。イノベーションによる高付加価値のサービス・商品の創出などを通じた労働生産性の向上を重視すべきとの考えを示した。そのうえで、イノベーションを起こす人材の育成が不可欠であり、そのために、計画的なOJTや個々人に適したOff‐JT、自己啓発支援など人材育成施策の充実を求めている。

さらに、多様な価値観のなかでイノベーションが生まれるとの観点から、女性や若年者、高齢者など多様な人材を活かすダイバーシティ経営の推進の重要性を説いている。

■ 第2章 雇用・労働分野における諸課題

労働時間に関する法改正への対応や、同一労働同一賃金関連法の内容と実務上のチェックポイント、最低賃金制度に関する考え方、育児や介護、治療などさまざまな制約を抱えた社員の仕事と生活の両立支援に向けた取り組みなどを整理した。

■ 第3章 2019年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンス

労使交渉の前提となるわが国企業を取り巻く経営環境について、緩やかな回復傾向にあるものの、先行き不透明感が強まっており、業績の伸びの鈍化が見込まれる業種もあると分析。地域経済を担う中小企業においては、深刻な人手不足の影響などによって景気回復を実感しにくい状況が続いていると指摘した。

また、大幅な賃金引き上げが続いているにもかかわらず、マクロの賃金の伸びが緩慢な要因を記したほか、賞与・一時金(ボーナス)の増加も個人消費を相当程度下支えしていることをデータで示すことで、個人消費喚起の観点からも多様な方法による賃金引き上げが重要であることを強調した。

連合「2019春季生活闘争方針」への見解

連合が月例賃金の引き上げに強くこだわった方針を示していることに対し、多様な方法による賃金引き上げの前向きな検討の流れと逆行するのではないかと疑問を呈した。また、中小組合における「総額1万500円以上を目安」との要求水準は、賃金引き上げの実態から大きく乖離しており、建設的な労使交渉を阻害しかねないとの懸念を示した。

経営側の基本スタンス

まず、競争力強化と収益拡大を図り、賃金など処遇を改善し、それをさらなる働きがいや生産性向上につなげていく「社内の好循環」の実現が必要との基本認識を示した。そのうえで、賃金はさまざまな考慮要素を勘案しながら、適切な総額人件費管理のもと、自社の支払能力を踏まえて企業が決めるとの「賃金決定の大原則」に則り、自社の状況に見合った年収ベースの賃金引き上げ方法を検討することが基本と明記。特に、収益が拡大した企業等には、賃金引き上げへの社会的な期待を考慮しながら、多様な方法による年収ベースの賃金引き上げや総合的な処遇改善への対応を求めている。

賃金引き上げでは、定期昇給などの制度昇給やベースアップの実施、諸手当の改定・見直し、賞与・一時金の増額など多様な選択肢のなかから検討するよう働きかけている。あわせて、多様で柔軟な働き方の実現や、福利厚生の充実、能力開発・自己啓発の支援を柱に、多種多様な方策による総合的な処遇改善の検討を呼びかけている。

【労働政策本部】