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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 週刊 経団連タイムス 2019年4月11日 No.3404 盛り上がりをみせる米国の温暖化政策論議<上> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

有馬研究主幹

3月17日から22日にかけてワシントンを訪問し、エネルギー温暖化政策をめぐる動向について有識者と意見交換してきた。昨年、中間選挙において民主党が下院で過半数をとり、今年に入ってからは来年の大統領選の前哨戦も始まっており、興味深い時期でもある。

民主党が下院を制した結果、すべての委員長ポストを民主党が占めることとなった。エネルギー商業委員会(委員長=パローン下院議員)は今年に入ってから温暖化問題に関するヒアリングを10回以上開催した。またドイッチュ下院議員(民主党)、ルーニー下院議員(共和党)らによる「エネルギーイノベーション・炭素配当法案」の提出という動きもある。これはトン当たり15ドルの炭素税を導入し、毎年10ドルずつ引き上げる一方、税収を「炭素配当」というかたちで全額国民に還付するというものだ。2017年2月にシュルツ、ベーカー元国務長官、ポールソン元財務長官等、かつての共和党政権の重鎮たちが提唱した「炭素配当」の考え方を踏襲している。上院では共和党が多数を占めているため法案が成立する見込みはないが、中間選挙後の新たな動きとして注目される。

また、民主党のイニシアティブにより下院に「気候クライシスに関する特別調査委員会」(委員長=カストー下院議員)が発足した。法案提出権限を有していないが、温暖化問題の議論を活発化させる「拡声器」としての役割が期待できるというのがワシントンの環境関係者の見方である。

目下、最大の話題は「グリーン・ニューディール」である。グリーン・ニューディールとは温暖化防止と経済格差の是正を目指す経済刺激策のことであり、1930年代にルーズベルト大統領が世界恐慌に対応するために行ったニューディール政策を環境問題、格差是正という今日的な課題のもとで行おうというものである。オバマ政権下でも再生可能エネルギーへの1500億ドルの投資(10年間)や500万人のグリーン雇用の創出を公約に掲げ、「グリーン・ニューディール」と呼称していたが失敗に終わっている。今回のグリーン・ニューディールは昨年の中間選挙以降、若年層を中心に盛り上がったサンライズ運動が唱導したものであり、2月初めにはオカシオ=コルテス下院議員、マーキー上院議員が上下両院でグリーン・ニューディール決議案を提出した。オカシオ=コルテス議員はサンダース上院議員のスタッフを経て昨年の中間選挙で史上最年少で当選し、「民主社会主義者」を自称する。マーキー上院議員はオバマ政権時にキャップ・アンド・トレード法案を共同提案した環境派である。決議案の骨子は以下のとおりである。

  1. 温室効果ガス排出ゼロを目指す
  2. 再生可能エネルギー等のゼロ・エミッション電源で電力需要に100%対応
  3. 交通システムを抜本的に見直し、ゼロ・エミッション車や公共交通、高速鉄道へ投資
  4. 気候変動関連の災害への強靱性構築、インフラ更新、建造物の設備更新(エネルギー・水道効率を向上)
  5. クリーン製造業の振興、農家・酪農家との協力
  6. 送電網の構築・更新(スマートグリッド整備等)
  7. 強力な雇用・環境保護を伴う国境調整、調達基準、貿易ルールの採択および執行
  8. 質の高いヘルスケア、住宅、雇用保障を全国民に提供
  9. これらの目的実現のため、今後10年間、国を挙げて取り組む

極めて野心的な内容であり、さらに温暖化防止のみならず、雇用、住宅、ヘルスケア等をもカバーしていることが特徴的である。

上院決議案の共同提案者のなかには民主党の大統領候補として名乗りを上げているサンダース、ハリス、ウオーレン、クロブシャー、ジルブランド、ブッカー上院議員が名を連ねており、民主党が温暖化問題を次期大統領選の中心論点にしようとしていることがうかがわれる。

【21世紀政策研究所】

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