経団連の産業競争力強化委員会(進藤孝生委員長、岡藤正広委員長)は4月5日、東京・大手町の経団連会館で経済産業省との検討会を開催した。「中小企業サプライチェーン強化」をテーマに、同省製造産業局の井上宏司局長と日立総合計画研究所の髙崎正有主管研究員から説明を聞き、意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 井上局長説明
中堅・中小企業は経営者の高齢化に伴う事業承継の困難化や、人手不足等の課題に直面。そのため、生産性向上につながる設備投資が必要不可欠だが、実際には設備老朽化に伴う維持・更新などが大半を占めており、生産性向上に資する投資は不十分である。
こうした状況から、中堅・中小企業の先行きが厳しいとみる向きもあるが、われわれはそうは思わない。地域経済を牽引する企業や、国際的にニッチな市場で高いシェアを持つ企業など、大企業を超える成長余力を持つ中堅・中小企業は数多く存在する。
経産省では、中堅・中小企業底上げのための各種施策を用意している。具体的には、設備導入や複数企業間でのデータ共有のための資金補助、専門家によるコンサルティング、受発注データを電子的に交換する「中小企業共通EDI」の普及促進、研究開発におけるニーズ・シーズのマッチングを行うイノベーションコーディネーター(IC)の配置などがある。IT化そのものを目的とするのではなく、経営者へのコンサルティングを通じ、企業個別の課題を特定したうえで、真に必要な支援策を示していくことが重要である。
■ 髙崎主管研究員説明
世界中で産業のデジタル・トランスフォーメーションに向けた取り組みが進められるなか、各国政府は中小企業を対象とした支援施策を展開している。IoTデバイスの爆発的な増加、通信速度の向上などにより、高速かつ低コストでのデジタルデータの収集、伝送、分析が可能となった。これにより、単一企業、単一グループで閉じていたサプライチェーンの水平ネットワーク化がさらに進展。外部の経営資源の取り込みが容易になり、経営資源の有無や多寡に大きく依存しないビジネス展開が可能となった。これは、従来の企業系列や産業といったくくりでの施策展開が通用しにくくなりつつあることを意味する。
中堅企業のIT化の現状について独自調査を行った結果、「生産管理工程の可視化」「受発注時のアナログ手続き排除」「セキュリティー脆弱性の排除」といった課題が浮かび上がってきた。課題解決に向けて、各工程のデジタルデータ化および相互接続を前提とする業務プロセスの見直しと、ユーザビリティー向上に取り組む必要がある。
顧客とサプライヤー、製造現場と経営現場をデジタルデータでつなぎ最適化するデジタルデータフローは、単一企業、単一サプライチェーンでは実現できない。個社の取り組みを超えた「社会生産性」の向上が重要との考えに立ち、同業他社や異業種との連携が進むような社会基盤整備を、ソフト、ハードの両面から行うべきである。具体的には、アナログ商慣行の排除、行政手続きの電子化、デジタルデータや事業者の信頼性を担保するトラスト基盤の実装等について、政府・産業界を挙げて進める必要がある。
【産業政策本部】