4月26日、日本経済研究センターの伊集院敦首席研究員を招き、「岐路に立つ朝鮮半島」と題し、朝鮮半島をめぐる近時の情勢ならびに今後の動向について説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 米朝ハノイ首脳会談(2019年2月)の評価
今年2月にハノイで行われた米朝首脳会談は交渉の具体的な進展に注目が集まったが、大きな成果がないまま途中で打ち切られた。完全な非核化に向けたビッグディールを目指す米国と、経済制裁緩和などの段階的同時進行を求めた北朝鮮との溝が埋まらなかったことが主な理由である。
もっとも、トランプ大統領は3度目の会談に向けた対話の機運を維持するとしており、また、金正恩委員長も挑発的な行動は抑制している。対話継続という点でトップリーダー同士の基本的な思惑は一致しており、今後の交渉に向けて仕切り直しとなった格好である。
■ 北東アジアの地政学と地経学
北朝鮮情勢をめぐって北東アジア情勢は変化の途上にある。
今回の米朝会談で韓国は仲介役を務めようとしたが、非核化という大きなテーマに対して韓国が役割を果たすのは難しい。韓国にとって、朝鮮半島の平和体制構築は経済的にプラスになると考えており、文在寅大統領が描く「朝鮮半島新経済地図」構想では北朝鮮の金剛山観光や開城工業団地の再開、鉄道・道路等のインフラ整備を示している。ただし、文大統領の対北朝鮮政策に対しては野党から強い批判も出ている。
中国は朝鮮半島への関与を強めつつあり、存在感を増している。中国政府は金委員長の中国訪問のたびに視察先を案内するなど、北朝鮮が改革開放を進めるなかで中国がサポートできることを示している。また、中国が進める一帯一路構想では、朝鮮半島南端の釜山まで取り込む構想が明らかにされている。中朝国境の鴨緑江・図們江(豆満江)を挟んだ両国の経済的結びつきは強く、中朝国交70周年を迎える今年には、習近平国家主席の北朝鮮訪問も計画されている。
一方、ロシアは、朝鮮半島情勢から距離を置いてきたが、北朝鮮へのパイプラインの設置等のエネルギー供給を通して存在感を発揮しようとしている。先ごろプーチン大統領と金委員長との初会談も行われた。ただ、ロシアの経済状態は良好ではなく、対北朝鮮政策として特別なことはできないのが現状である。
■ 今後のシナリオ・交渉のポイントと日本の対応
朝鮮半島情勢をめぐっては、米朝間でのディールの実施、軍事行動シナリオ、偶発的戦争の勃発等のシナリオが考えられるが、現状、即座に軍事的行動がとられる可能性は低い。米国は最大限の圧力継続を想定しており、非核化ならびに平和体制の構築、制裁緩和などが引き続き交渉の最大のテーマである。
今後の交渉の枠組みとしては、米国、北朝鮮、韓国の3カ国に中国を含めた「3+1方式」が引き続き中心となると考えられるが、トランプ大統領は交渉の進展に向けて日本の関与が必要であると考えている。安倍晋三首相も金正恩委員長との直接対話に意欲を示している。トランプ大統領は非核化の交渉が進展すれば、ディールの財源として韓国、中国に加え、日本に協力を求める可能性が高い。もっとも、今後の情勢次第で北朝鮮とのディールに対するトランプ大統領の関心がどこまで続くかは未知数である。
朝鮮半島情勢をめぐっては「変数が多い」状況であり、あらゆるシナリオに備えた準備が必要である。
【米国事務所】