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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年5月16日 No.3407 電子経済課税の動向 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹 青山慶二(前早稲田大学教授)

青山研究主幹

BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの重要な積み残し案件である電子経済課税については、今年2月のOECDによるコンサルテーションペーパーの公表により、2020年の最終結論の取りまとめの方向性が絞り込まれた。すなわち、電子経済の市場の所在国に課税権を新たに付与する長期的解決策として、ネクサス原則(課税権の決定ルール)と利益配分原則を、(1)ユーザー参加に基づき構成する案(英国案)(2)マーケティング上の無形資産に基づき構成する案(米国案)(3)重要な経済的存在に基づき構成する案(インド等途上国案)――の3つのオプションの提起である。英米案は電子経済がもたらす超過収益を切り出し(通常利益は各事業体に別途配分)、利益分割法の手法で市場国にその稼得への貢献に応じて課税権を配分しようとするのに対し、途上国案は多国籍企業の全利得を売上・資産・従業員およびユーザーを考慮して配分するものであり、現行課税制度からの乖離が大きい。

なお、この第1の柱に加えて、無税または軽課税国への電子経済による利益移転に対応する観点から、当該国に所在する支店・子会社の所得を合算するとともに、これらの関連者への税源浸食的支払いについて損金算入を否認するという、第2の柱も検討対象とされている。この第2の柱は、17年末のトランプ税制改革で導入された米国税制であるGILTI(グローバルな低課税無形資産所得の合算制度)とBEAT(税源浸食支払いに対する課税)の税制を参考にしている。

3月中旬に、OECDは上記2つの柱を内容とするペーパーについて、2000ページに及ぶコメントを事前収受のうえ、全世界から約400名の利害関係者が参加するパブリックコンサルテーションを開催した。BEPSプロジェクトへのインプットで影響力を高めてきた経団連は、今回もBusiness at OECD(BIAC)とともに、事前の本邦企業ヒアリングを踏まえて第1の柱に関してプレゼンテーションを行った。

焦点は、マーケティング上の無形資産に着目する米国案であったが、その理由は、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)などの高度なデジタルビジネスに焦点を絞った英国案よりも、電子経済全般を対象とする米国案は、IoTを活用する製造業や自動運転の成長が見込める自動車などのわが国多国籍企業にとって、各国での予見困難な新たな課税リスクとなることを懸念する声が大きかったからであった。そこでは、マーケティング上の無形資産よりも特許権、著作権などの本社保有の事業用無形資産の貢献が大きいという本邦企業の体質に鑑み、現地事業体には取引単位営業利益法などの片側検証で対応できるケースが多いと主張し、過大に市場国に所得配分されるリスクのある米国案を牽制している。この主張は、他のコメンテーターも共有するところとなっている。

現在は、コンサルテーション結果を踏まえた改定作業が行われていると思われるが、その内容は、5月下旬のOECD包括的枠組み会合を経て、6月初旬に福岡で開催されるG20財務大臣会合に報告されるまで明らかにされない。市場国であるEUを中心に暫定措置として高度なデジタル事業に対する1国限りの売上税の執行が拡大しつつあること、あわせて、EUからは加盟国間で統一デジタルサービスタックスについての合意断念が伝えられたため、本件のOECD作業に期待が集中している状況にある。

目下のところ、デジタル業界をリードする米国の納得がない限り課税ルールの国際合意はおぼつかないことから、米国案を中心に検討が進むとの見方が有力であるものの、電子経済課税をめぐる居住地国と市場国の利害調整は、税をめぐる残された究極のゼロサムゲームであり、処方箋がどのように絞り込まれるかは予断を許さない。ただし、法人税は企業活動を課税面からかく乱しないことを旨としており、経団連がコンサルテーションで繰り返し主張した「比例原則」に沿った枠組みでの合意が要請されよう。OECD事務局は20年の結論のために、G20で方向性を定めて関連する作業部会に技術的な検討を委ねたいとしており、議長国であるわが国のリーダーシップが問われている。

【21世紀政策研究所】

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