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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年9月19日 No.3423 超高齢社会を見据えた未来医療予想図
~地域コミュニティーのリ・デザイン<下>
-21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(東京大学高齢社会総合研究機構教授) 飯島勝矢

飯島研究委員

真の地域包括ケアシステム構築には、病院医療(外来医療・入院医療)と地域のかかりつけ医による医療(在宅専門も含む)等の多方面との連携と意識改革が非常に重要である。さらに、医療介護従事者だけの努力と連携だけではハードルを越えることはできず、そこには(国からの方針を見据えながらも)市区町村等行政主導による多面的な戦略および深い関わりが必要不可欠である。それが多職種協働を中心とした「地域力」の底上げにもつながる。

言い換えれば、地域を構成しているマルチステークホルダーによって、より早期からの予防から在宅療養までを展望(俯瞰)した「総合的なまちづくり」をいかに可視化し具現化できるのかということになる。その基盤となる真の地域包括ケアの改革が進むかどうかは、医療・介護関係者、行政、そして市民も含めたまちぐるみでの活性化がうまく進むかどうかに大きくかかっている。

超高齢社会が進むなかで、健康増進から介護予防までも視野に入れ、健康寿命延伸の実現に向けて「フレイル(虚弱)」という概念が打ち立てられ、さまざまな施策や活動に反映されてきている。フレイル化の最大の危険因子がサルコペニア(筋肉減弱)である。このフレイル予防・サルコペニア予防を実現するためには、健康長寿のための3つの柱である(1)栄養(特に食・口腔機能)(2)運動(3)社会参加――を三位一体として包括的に底上げし、少しでも早い時期から住民自身の意識変容・行動変容をねらうことが求められる。同時に、それを強力に促すための良好な社会環境の実現(例えば、保健・医療・福祉等サービスを含めた健康長寿支援へのアクセスの改善と地域の絆に依拠した健康づくりの場の創出など)も併存することが必須である。まさに「総合知によるまちづくり」という視点で従来の健康増進事業・介護予防事業を見つめ直し、新しい風を入れるべき時がきている。

筆者は栄養(食・口腔)、運動、社会参加の三位一体を住民同士で「気づき・自分事化」させるための、高齢住民主体の「フレイルチェック」を構築し、全国展開のかたちで推し進めている。住民が集う場で行えて、笑いの絶えないエンターテインメント性をもち、かつ科学的根拠を基にした心と身体の通知表をつけるものとなっている。さらに、専門の養成研修を受けた高齢の住民フレイルサポーター自身が参加者のロールモデルにもなり得るので、継続参加につながるように設計されている。いかに個々人がより早期からのフレイル予防の重要性を容易に認知でき、周囲の仲間と一緒にその行動変容につながるのかがカギになる。このフレイル予防の活動は、結果的に社会性も促進されることから、認知症予防にもつながることが期待される。

最後に、わが国が新たなステージに入るためには、新旧のエビデンスを十分踏まえたうえで、行政改革も中心に置きながら「まちぐるみでの包括的アプローチ」をいかに有効的に持続可能なかたちで達成するのかがカギになるだろう。それを実現し各地域に根付かせることができれば、最終的にはわれわれの追い求める「Aging in Place」(注)につながると確信している。

(注)Aging in Place=高齢者ケア施設などではなく住み慣れた地域で高齢期を過ごすこと

【21世紀政策研究所】

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