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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年12月5日 No.3434 観光におけるスポーツの活用について聞く -観光委員会企画部会

経団連は東京・大手町の経団連会館で観光委員会企画部会(今泉典彦部会長)を10月に開催。政府関係者と有識者から、観光振興・地域振興に向けたスポーツの活用をテーマに説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ スポーツを活用した観光振興
(観光庁観光地域振興部観光資源課課長補佐・小林誠氏)

観光は世界のGDPの約1割を占め、雇用・企業の創出や社会基盤の開発を通じて社会・経済の発展を牽引する重要な役割を果たす。アジア・太平洋地域を中心に国際観光市場が拡大するなか、人口減少・少子高齢化に直面するわが国においては、定住人口の減少に伴う消費額の低下を外国人旅行者数の増加で埋め合わせる効果も見逃せない。

政府は2003年の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を契機に本格的に観光振興に取り組んだ。第2次安倍内閣発足後には、「観光立国推進閣僚会議」の開催に加え、「明日の日本を支える観光ビジョン」「観光立国推進基本計画」「観光ビジョン実現プログラム」等を矢継ぎ早に決定している。

政府一丸となった取り組みの結果、18年の訪日外国人旅行者数は3119万人、旅行消費額は4兆5189億円と過去最高に達した。

インバウンドの拡大に伴うリピーター増加の影響もあり、訪日客の旅行行動は「都市部から地方部」「モノ消費からコト消費」へと変化している。にもかかわらず、旅行消費額に占める「娯楽・サービス費」の割合は4%に満たない。地方を含めて体験型コンテンツの充実が今後の大きな課題である。

課題解決にはスポーツツーリズムの推進も重要な視点である。日本列島は南北に長く、各地域には四季折々の自然や食文化が存在する。こうした地域の観光資源とスポーツを組み合わせて交流人口の拡大や地域振興を図ることが重要である。

観光庁では、個々の観光資源に魅せられて訪日する「テーマ別観光」のモデルケースの形成を促進しており、ウオーキングやサイクリング、マラソンなどスポーツの要素も盛り込まれている。

スノーリゾートの活用も大きなポテンシャルを秘めている。国内におけるスキー・スノーボード人口はピーク時の3割強まで落ち込んだが、スノーリゾート地域への訪日客は大幅に増加している。同地域の活性化に向け、観光庁では田沢湖におけるモデル事業の実施や中国に対するマーケティング・プロモーション等に取り組んでいる。スポーツを貴重な観光資源ととらえて今後も活用していきたい。

■ ラグビーワールドカップのケースから考えるスポーツ観光による持続的地域振興
(山口大学経済学部准教授・西尾建氏)

アジア初開催となった「ラグビーワールドカップ(RWC)2019日本大会」が盛り上がりをみせている。国際的なスポーツイベントにおいては、大会の成功にとどまらず終了後のレガシー活用が重要となる。

C・グラットンとH・プレウスは08年、「レガシー・キューブ」を作成し、オリンピックのレガシーについて、(1)主体(公的・民間)(2)効果(ポジティブ・ネガティブ)(3)可視性(可視的・非可視的)―の3つの軸で区分した。この分類に従えば、民間のポジティブな面としてホテル建設や商業施設の改装、民間の非可視的な面として草の根のボランティアや国際交流、公的でネガティブな面として過剰投資や未利用放置が挙げられる。

RWCを通じた観光振興の成功事例としてニュージーランド・ハミルトン市が挙げられる。11年のRWCニュージーランド大会で開催都市の一つになり世界中から多くのファンを集めた。イベント後も、大会のレガシーを活用して多くのスポーツイベントを戦略的に招致していった。同市は世界有数の観光地「ホビット村」を組み合わせたプロモーションを精力的に展開し、海外メディアやSNSを通じて世界中に街の魅力を配信した。大会後、市の観光局を中心に地域一丸で国際大会の招致に取り組んだ結果、クリケットワールドカップ(15年)、ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズツアー(ラグビー、17年)、7人制ラグビー世界シリーズの単独開催(18年)と、地域活性化につなげている。

わが国ではRWCに加えて、来年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会、再来年のワールドマスターズゲームズ関西とスポーツの大規模イベントが続く。事前キャンプを含めて各国チームやメディアをホスティングし、国全体でスポーツイベントのレバレッジ効果を戦略的に高めていくことが重要となる。

【産業政策本部】

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