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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年12月5日 No.3434 Society 5.0時代に向けた初等中等教育のあり方と「哲学対話」を取り入れた学校改善について聞く -教育・大学改革推進委員会企画部会

経団連は11月11日、東京・大手町の経団連会館で教育・大学改革推進委員会企画部会(宮田一雄部会長)を開催した。東京大学公共政策大学院・慶應義塾大学総合政策学部の鈴木寛教授からSociety 5.0時代に向けた初等中等教育のあり方について、東京都立大山高等学校の外川裕一校長から「哲学対話」を取り入れた学校改善について説明を聞いた。概要は次のとおり。

■ Society 5.0時代に向けた初等中等教育のあり方(鈴木教授)

英語4技能を問う入試の必要性

11月1日、文部科学省は、大学入学共通テストにおける「聞く」「話す」「読む」「書く」の英語4技能を問う民間試験の導入について、2024年度までの延期を発表した。

日本はインバウンドの加速や諸外国からの投資の呼び込みを進めていく必要があるが、日本人の英語力が世界第53位と低いことは、移民との競争が迫られる日本の若者の就業機会確保にとっても、経済成長にとっても致命的である。英語教育は、1999年の学習指導要領で「コミュニケーション能力の育成を重視」を盛り込み、しかも、いまや高校の英語教員の7割が英語を話せるにもかかわらず、いまだに英語コミュニケーションの授業は3割強の高校でしか実施されていない。これは、大学入試で「話す」能力を問われることが少ないことが原因であり、入試での英語4技能の出題が求められる。

大学入学共通テストの英語4技能試験の延期が決まってしまったいま、個別入試で英語4技能を実施する大学を増やしていくしかない。実施する大学への支援を自民党は提案しているが、経済界も、英語4技能の教育・学習の取り組みを評価するため、採用選考時に学生に英語民間試験の結果を提出させたり、各大学の入試および大学での英語教育における英語4技能の実施状況を企業間で共有したりするなど、いろいろ工夫してほしい。

Society 5.0時代に求められる教育政策

AIが人間の知能を上回るシンギュラリティー(技術的特異点)に到達する歴史的な大転換点を迎えようとする時代には、AI等の革新的技術を使いこなす力や、AIでは解けない難問と向き合い続ける力が求められる。教育政策として、(1)公正に個別最適化された学び(2)基礎的読解力、数学的思考力などの基盤的な学力や情報活用能力の習得(3)文理分断からの脱却―を進めることが不可欠である。マークシートで測れる能力は将来AIに取って代わられてしまう。大学入試で、思考力・判断力・表現力を問う記述式の出題、国立大学のAO入試枠を拡大し、高校時代の探究学習や課外活動をより評価していくことが必要である。

■ 「哲学対話」を取り入れた学校改善(外川校長)

当校では、「哲学対話」を通じて、パーソナリティーや家庭環境に大きく依拠する学ぼうとする意欲を引き出し、学力向上につなげようと取り組んでいる。2016年に「学力向上推進校」の指定を受け、教員向け研修として哲学対話を実施したところ、教員自身の授業に向き合う姿勢が変わったことから、生徒にも哲学対話を実施することとなった。

哲学対話では、生徒ら10名程度で車座を囲んで1つのテーマを設定し、ファシリテーターが対話のかたちになるように注意を払いながら、生徒らが問い続け、考えを語り合うように進めている。哲学対話には、(1)自分で問い、考えを進めることによって、疑問に思うことや知りたいことが何なのかがわかって理解が深まる(2)人に語ることによって、漠然と頭の中にある考えをまとめ自分の言葉を獲得できる(3)他者の話を聞くことによって、自分と他者の違いを知り、自分の考えを広げ、深められる―といった効果がある。実際、当校では哲学対話が生徒個人の潜在化していた能力の開花を後押しし、明確な進学意識を持って4年制大学に進学する生徒も現れている。

哲学対話は現在、「総合的な探究の時間」や生徒自由参加型の「しゃべり場」で実施しているが、今後は、AO・推薦入試(総合型選抜)で大学進学を目指す生徒を支援する講座である「山高ゼミ」でも、自身を見つめ直すために適宜実施する予定である。

【SDGs本部】

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