経団連は12月19日、東京・大手町の経団連会館で金融・資本市場委員会(國部毅委員長、日比野隆司委員長、林田英治委員長)を開催し、遠藤俊英金融庁長官から「今後の金融行政の方向性」について説明を聞くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 金融行政の改革
(1)検査・監督手法の見直し
「ルール重視の事後チェック行政」などの方針により、金融監督庁(当時)発足時の最大の課題であった不良債権問題は2000年代半ばに解決した。その後も機械的に検査・監督を継続した結果、融資の際に銀行が借り手の事業内容ではなく、担保・保証の有無などの形式を必要以上に重視するなどの副作用が生じた。
これを踏まえ、金融行政の目標を「企業・経済の持続的な成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大」と再設定した。この新たな目標達成のために、検査・監督方針を「ベストプラクティスの追求に向けた対話」に変更し、コードやプリンシプルに基づいた金融機関との対話を進めるとともに、金融庁や金融機関による情報開示(例えば、投資信託の販売会社の運用損益別顧客比率)を通じて、顧客が金融機関を選別する環境を目指している。
(2)金融当局の改革
指示の連鎖から対話の連鎖に変えるべく、顧客本位の業務運営と探求型対話を金融機関に求める金融庁自身が変わる必要がある。このため、主に2つの取り組みを進めている。
「1on1ミーティング」はリーダーが管理可能な少人数グループでの個々のメンバーとの率直な対話を通じて、職員の心理的安全性を確保しつつ、生産性を高める取り組みである。
「政策オープンラボ」は若手職員の人材育成と新規性・独自性のある政策立案を目的とした自主的な取り組みである。「地域課題解決支援プロジェクト」では地域の金融機関だけでなく、自治体なども巻き込み、その活動を評価した県や支援機関が予算を確保するなど取り組みが広がっている。
■ 今事務年度の金融行政の重点施策
(1)多様なニーズに応じた金融サービスの向上
社内規則の定め方等により、国民の安定的な資産形成に資する株取引等が必要以上に控えられていると考えている。これを踏まえ、インサイダー取引規制に関するQ&Aを2019年7月に改訂した。例えば、重要事実を知らない場合の株取引、重要事実公表後の株取引、ETF(上場投資信託)や一部を除いて投資信託の取引が同規制の対象外であることを明確にした。社内周知や、社内規則が投資対象や役職員の属性・階級を問わず一律に厳格な規制となっていないかの見直しをお願いしたい。令和2年度税制改正では、つみたてNISA、一般NISAの制度期限を延長した。
LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)は、2021年末以降、恒久的に公表停止となる可能性が高まっているなか、公表停止に備えた対応について、日本円金利指標に関する検討委員会(事務局=日本銀行)を中心に議論している。公表停止の影響は、一般事業会社にも及び、金融機関からの借入やリスク管理、内部取引などで利用している場合もある。公表停止に備え、自社の契約や業務などでの利用状況をあらためて把握する必要がある。
(2)金融サービスに関する利便性の高いワンストップチャネルの実現
金融サービス仲介法制の整備を進めている。若い世代を中心に、スマートフォンのアプリ1つでさまざまな金融サービスを比較し、自身に合ったものを安く購入したいというニーズがある。銀行、証券、保険と縦割りでのサービス提供となっている現状に対し、横断的な金融サービス仲介業を設けて、利便性の高いワンストップチャネルの実現に取り組んでいる。
【経済基盤本部】