経団連の雇用政策委員会(岡本毅委員長、淡輪敏委員長)は2月21日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、慶應義塾大学の花田光世名誉教授から「キャリア自律とキャリア支援」をテーマに講演を聞いた。概要は次のとおり。
■ キャリア自律の法的対応
職業生活の設計とそのための能力開発を社員が自発的に行うこと(キャリア自律)を支援するため、職業能力開発促進法が改正され、2016年4月から、企業がキャリアコンサルティングの機会を社員に提供することが努力義務とされた。
さらに、19年4月からは、各事業所の教育計画の策定等を行う職業能力開発推進者について、国家資格を持つキャリアコンサルタント等から選任することとされている。こうしたなか、厚生労働省は現在約4万5千人のキャリアコンサルタントを25年3月末までに10万人に増やす計画を打ち出している。従来、カウンセリングやコーチングなど個人への支援が中心であったキャリアコンサルタントの役割は拡大しており、今後は各企業において、人事とキャリアコンサルタントの協業が重要な課題になってくる。
■ ライフキャリアの長期化等に向けた対応
キャリア自律とキャリア支援が求められる背景には、組織の仕組みの変化、働き方の変化、そして、それらに影響を与える要因の一つのライフキャリアの長期化がある。今後、70歳や75歳まで働く人が増加することが想定されるなか、ライフキャリアの構造は変化し、25~45歳がジュニア、45~65歳がミドル、65歳超がシニアという新しい位置づけすら可能になると考えられる。そのなかで、例えば、ミドルでは副業・兼業、シニアでは週休3日などの働き方を選択することも含め、長いライフキャリアをどう設計するのか等を考える必要が出てこよう。
ライフキャリアの長期化に伴い、人事の仕組みも変化しつつあり、これまで細かく設定されていたグレード(等級)がスリム化される傾向にある。その結果、ポストオフを迎えた管理職を含め、多くの社員が特定のグレードに長期間滞留することが想定され、キャリアアップを前提とした従来のモチベーション管理は機能しなくなるおそれがある。このため、それぞれのグレードのなかで、成長を実感し、キャリア充実を図ることが重要となる。
さらに、技術革新などに伴い、3~5年のペースで仕事のあり方が変わっていくことから、リカレント教育が重要になる。座学中心ではなく、現場のなかで新しい人間関係や知識を獲得してもらうことがミドルやシニアのキャリア支援の一環として重要である。
■ 変化する仕事や役割に対応する仕組み
社員のキャリア自律を支援することを自社の人材育成方針や就業規則などに明示するとともに、企業にはキャリアデザインワークショップなどのさまざまな施策とキャリア面談を組み合わせた総合的な仕組み(セルフ・キャリアドック)を導入することが求められる。
その際、キャリアコンサルタントが人事と協業しながら、社員のコミットメント(大切なことに対して当事者意識と責任を持ち続けること)とエンゲージメント(大切なことに対して行動を実践し続けること)を維持・向上するための仕組みをつくることがポイントとなる。
【労働政策本部】