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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年3月12日 No.3446 米国大統領選とエネルギー温暖化対策<上> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学公共政策大学院教授) 有馬純

有馬研究主幹

先日、来日中のエリオット・ディリンジャーC2ES(Centre for Climate and Energy Solutions)副会長と、米国大統領選とエネルギー温暖化対策について意見交換する機会があった。当研究所主催でセミナーを開催予定であったが、新型コロナウイルスの影響で開催中止になってしまった。

本稿では、ディリンジャー氏の見立ても交えながら、米国大統領選がエネルギー温暖化対策に与える影響について論じてみたい。

■ 米国人の気候変動観の変化

洪水、山火事等、米国内で頻発する異常気象の影響もあり、米国人の気候変動観に変化が生じつつある。直近の世論調査では、76%の有権者(共和党支持者の54%を含む)がパリ協定残留を支持しており、特に民主党支持者の72%は気候変動問題を大統領選候補者選定の非常に重要なメルクマールとしている。多くの有権者はCO2規制、高燃費車、太陽光パネルへの税還付、再生可能エネルギーの研究開発支出を支持しており、69%の有権者は化石燃料企業に炭素税を負担させることを支持しているという。

■ 米国企業、業界団体の動向

気候変動に後ろ向きなトランプ政権下でも、民主党支持の強い州ではオバマ政権時代の温室効果ガス削減目標へのコミットや自動車燃費規制の強化等が進められてきた。最近ではカルフォルニア等4州が2050年もしくは2045年までにカーボンニュートラルを達成するとの目標を設定している。民間企業でもアマゾン、グーグル等のようにカーボンニュートラル目標や再エネ100%目標を掲げる企業が増えつつある。従来、温暖化対策に後ろ向きであるとされてきた米国商工会議所や製造業者協会も、現実的・予見可能・持続可能な温暖化対策を支持するとの方針を打ち出している。

■ バイデン候補、サンダース候補の温暖化公約~巨額の財政支出

トランプ大統領がパリ協定やクリーン・パワー・プラン等、オバマ政権時代の温暖化対策を次々に否定してきたことへの反発に加え、上記のように米国民や企業の間で意識変化が生じていることを背景に、民主党の大統領選候補者はいずれも気候変動対策を自身の公約の重点項目として位置づけてきた。

民主党の大統領候補は、3月3日のスーパーチューズデーで9州を制した穏健派のバイデン前副大統領、4州を制した左派のサンダース上院議員の2者に絞られた感がある。ここでバイデン氏とサンダース氏の温暖化対策綱領を比較してみよう。

両者とも、上下両院に提出されたグリーン・ニューディール決議案を色濃く反映したものになっている。バイデン氏は自らのパッケージを「クリーンエネルギー革命」と呼び、サンダース氏はそのものずばりの「グリーン・ニューディール」である。両者とも政権発足第1目にしてパリ協定への復帰を公約しており、2050年の脱炭素化を目指している点は同じである。

他方、脱炭素化に向けたお金の使い方は随分違う。サンダース氏は今後10年間で環境対策に16.3兆ドルを支出するとしており、これにより2000万人の新規雇用を生み出せるとの見通しを示している。これに対し、バイデン氏は今後10年間で1.7兆ドルの支出、1000万人の新規雇用を打ち出している。サンダース氏に比して堅めの数字といえるが、それでも巨額であることには変わりない。

■ 2050年ネットゼロエミッションのバイデン、ゼロエミッションのサンダース

2050年脱炭素化の考え方について、サンダース氏は遅くとも2030年には電力システムと交通セクターを100%再生可能エネルギーにし、その他セクターも2050年までには化石燃料依存から脱却するとしている。バイデン氏は遅くとも2050年には米国のネットゼロエミッションを実現するとしている。サンダース氏が化石燃料脱却による完全なゼロエミッションを志向するのに対し、バイデン氏は化石燃料利用に伴うCO2排出をCCS(二酸化炭素回収・貯留)によって抑制するネットゼロエミッションを志向している。

【21世紀政策研究所】

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