21世紀政策研究所(飯島彰己所長)は2月25日、東京・大手町の経団連会館でシンポジウム「高齢者の自立と日本経済」(研究主幹=樋口範雄武蔵野大学法学部特任教授)を開催した。概要は次のとおり。
■ 「高齢者の自立と日本経済」研究会から学んだこと
(樋口範雄研究主幹・武蔵野大学法学部特任教授)
21世紀政策研究所「高齢者の自立と日本経済」研究プロジェクトでは、わが国が超高齢社会になることで生じる新たな課題を扱った。特に、米国では、財産管理・承継、医療などの場面において、認知機能の低下や死亡といった事態に陥る前に、そのような事態に陥った場合にどう対応するか事前にプランニングがなされるが、わが国の社会ではそれがなされていないことに着目。医学、法学、経済学といった専門分野を異にする者が集まり、こうした状況にどう対処していくかを検討した。そのこと自体が有益であり、さらに工学系や看護・介護系など別の分野の専門家が集まれば、もっと別の見方や課題が提示されるだろう。
■ 高齢化と金融資産
(駒村康平研究副主幹・慶應義塾大学経済学部教授)
今後、世界全体で中位年齢が上昇し、また、長寿化などによって「資産の高齢化」も進み、75歳以上が保有する個人金融資産が540兆円に上ることになる。認知機能は正常加齢によっても低下するし、さらに認知症になると、最初にお金の管理が難しくなる。また、高齢化とそれに伴う認知機能の低下から派生する問題として、中小企業の経営者が、後継者が決まらないまま高齢化し、企業の経営が不利になる問題などもある。経済力を持ちながら判断能力は低下した高齢者が増加する社会を、金融機関や専門家の支援を通じて支えていくのが金融ジェロントロジー(老年学)の役割である。
■ 超高齢社会を見据えた未来医療予想図
―地域コミュニティのリ・デザインによる健康寿命延伸戦略
(飯島勝矢研究委員・東京大学高齢社会総合研究機構教授)
健康寿命の延伸に向けた活動を行っているが、これを国家戦略として、各自治体にどう下ろしていくのかが課題である。フレイルという言葉は、虚弱を意味する英単語から取った和製英語であり、戦略的にタイミングをねらって打ち出した。フレイル対策の3つの柱には、栄養、身体活動、社会参加があるが、これをいかに自分の生活に組み込み、継続性のあるものとして、自治体の選択肢から拾えるかが重要である。しかし、わが国はここでつまずいているため、現在、フレイル予防を通した市民主体の健康長寿まちづくりを行い、その改善を図っている。
■ 超高齢社会のモビリティ―スローモビリティへの期待
(鎌田実東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)
社会とつながりを持つためには移動手段が必要になるが、普通の速度では、技術支援によって完璧に安全にするのは実際上難しい。この点、「低速化」は、安全性などの観点から一つのキーワードになる。小型の電気自動車の活用は今後の社会に適するとして、20年前からさまざまな地域でこれを活用する取り組みを行っている。ゴルフ場のカートを保安基準に適合させて公道走行可能にしたグリーンスローモビリティーは、運転者同士、同乗者、街行く人などとのコミュニケーションツールになる。当面は、スローモビリティーを活用して、社会問題の解決を目指したい。
<パネルディスカッション>
講演終了後は、樋口主幹、駒村副主幹、飯島委員に関ふ佐子研究委員・横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授を加え、パネルディスカッションが行われた。冒頭、関委員から、法制度は、対象となる人の人間像を想定して設計されているため、高齢者法において、高齢者をどのような人としてとらえ、保障・保護・配慮していくべきかを考える必要があるとの指摘があった。
さらに、会場の参加者も交え、定年退職後の高齢者に労働の場がないことによる認知症の進行の問題など、講演で触れられなかった新たな課題についても議論がなされた。
【21世紀政策研究所】