経団連は5月19日、都市・住宅政策委員会企画部会(安達博治部会長)をオンラインで開催し、名古屋大学大学院工学研究科土木工学専攻の中村光教授から、インフラ老朽化対策の現状と課題について説明を聞くとともに懇談した。講演の概要は次のとおり。
■ インフラ老朽化と維持管理の現状
近年、インフラの高齢化が進んでおり、特に道路橋、河川管理施設(水門等)、港湾岸壁については2033年までに約6割が築50年以上となる。日本では、12年の笹子トンネル崩落事故を機に、インフラ維持管理が社会的に注目されるようになった。国土交通省は13年をメンテナンス元年と位置づけ、道路法を改正し、すべての橋梁・トンネルに対して5年に一度定期点検を実施することとなった。ほぼ同時期に、河川等についても法律が改正され、維持管理が法定化された。
他方、地方自治体の状況をみると、18年度末時点では橋梁の長寿命化修繕計画を策定していない自治体が約2割あり、また、村のうち半分以上は土木技術者が一人もいない。
■ 制度上の課題
老朽化インフラの予防保全を行うことで、事後保全の場合と比べて費用負担が3割削減できるとされるが、見かけ上は健全なインフラの保全費用の支出について、住民から理解を得ることは難しい。住民の意識を高めるためには、積極的な情報発信が重要となる。
日本土木学会では16年から「社会インフラ健康診断」を実施している。施設の健康度を測るとともに、現在の維持管理体制を評価している。自治体の意識を高めるために、地域ごとに評価を示すことも検討している。
新技術の導入を進めるうえでは、技術マッチングが重要となる。その際、管理者側がニーズを明確化する必要があるが、特に土木技術者のいない自治体においては対応が難しい。また、維持管理は建設と比べて多様性・個別性が高く、仕様規定での発注が難しいことから、性能規定で発注して、受注者側がいろいろな技術を提案できるようにする必要がある。
維持管理は時間軸が極めて長い取り組みであり、当然、従来と違う予算・会計の考え方が必要になる。例えば、医療における任意保険と同様に、自治体に毎年、インフラ維持管理のための積立金を計上させることも一案だ。
■ 技術開発上の課題
インフラメンテナンスでは、点検、診断、措置、記録の順にサイクルを回すが、診断・措置はリスクを明確にし、それを除去するために行うのであり、点検ではそのために必要なデータを収集することが求められる。
内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」では、14~18年度の間、「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」というテーマで研究開発が実施された。従来の土木の枠組みを超えてさまざまな企業が参加したが、ほとんどの技術が維持管理負担の軽減に主眼を置いており、維持管理の本来の目的である事故災害リスクの低減を目指したものは少なかった。劣化予測など事故災害リスク低減に資する技術の開発が期待される。
【産業政策本部】