経団連は7月7日、東京・大手町の経団連会館で外交委員会企画部会(小久保憲一部会長)を開催し、東京大学の玉井克哉教授と多摩大学の國分俊史ルール形成戦略研究所所長から、わが国の経済安全保障戦略のあり方について説明を聴くとともに意見交換を行った。両氏の説明の概要は次のとおり。
■ 玉井氏説明「技術安全保障と企業戦略」
米中のデカップリングに対する米国企業の論調は、1年前までは「本当にできるのか」だったが、いまは「やる」であり、中国からの生産拠点のシフトも起き始めている。日本企業も「やらねば米国市場を失う」という段階ではないか。
技術安全保障研究会が2020年3月に提言「経済安全保障法の制定を」を公表し、さまざまな提案をしている。国家安全保障会議に対応する「民間評議会」については、経団連の積極的な役割を期待している。また、喫緊の課題はセキュリティ・クリアランス制度(国家の機密情報にアクセスできる資格)の導入である。これを持たなければ触れられない情報を取得できないと、他国企業との競争で不利になる危険がある。
■ 國分氏説明「米中冷戦で必要となる企業経営の新秩序」
経済力を梃子に地政学的な国益を追求する中国のエコノミック・ステイトクラフトは激化している。経済援助の停止や輸入の削減など、旧来型の手法のみならず、企業への立ち入り検査での禁止添加物の検出や品質基準不適合品の検出等の巧妙な手口も用いているため、企業が気づくのも難しい。さらに、中国のインターネット安全法や安可目録(政府調達規制)では、インターネットにつながったコンピュータが5台以上あるネットビジネス企業は、捜査員が同席する立ち入り検査によって、機器に収められたデータの強制確認が行われるなど、安全保障の視点からの国内法の改正が進んでいる。
これに対して米国は、知財侵害による被害額が年間約6~11兆円との試算を示し、企業に対して、米国立標準研究所が推奨するサイバー技術規格の遵守を求め始めている。加えて、技術覇権を維持するため、ハイテク技術を軍事技術と同等のレベルで管理することを求める経済安全保障ルールの形成を進めている。安全保障の分野では、恣意的な運用を戦略的に行える曖昧な制度設計になるため、ハイテク領域の定義は曖昧なままであることが予想される。ゆえに日本としては、非ハイテク領域を能動的かつ広範囲かつ明確に定義するルール形成を主導し、日米中で安全にビジネスができる領域をつくり出すリーダーシップを発揮すべきである。例えば、ルール形成戦略議員連盟では「ハイブリッド車は非ハイテク領域である」と定義した。
【国際経済本部】