Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2020年11月26日 No.3477  21世紀政策研究所が米国大統領選挙と国際社会の展望に関するセミナーを開催

21世紀政策研究所(飯島彰己所長)は11月12日、セミナー「大統領選挙結果と国際社会―日米、中米、欧米関係を中心に」を300名の参加を得て開催し、米国大統領選挙の結果が国際社会に及ぼす影響を日米・中米・欧米関係という3つの視座から分析した。

同研究所が推進する米国研究プロジェクトと中国研究プロジェクトは、かねて米国政治・社会の動向、米中関係、中国社会の変容を分析してきた。今回のセミナーは、これら研究の一環として開催されたもの。米国研究の久保文明研究主幹(東京大学教授)、中国研究の川島真研究主幹(東京大学教授)に加え、ゲストとしてNHKの国際記者、解説委員として30年以上にわたり軍事、安全保障問題を専門に取材し、欧州情勢に詳しい英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の秋元千明日本特別代表を迎え議論を深めた。概要は次のとおり。

■ 大統領選挙結果と米国政治・日米関係(久保研究主幹)

大統領選挙については、バイデン氏の勝利は揺るがない。バイデン政権になれば、同盟国や国際組織を重視する安定性の高い外交へと回帰するだろう。ただし、米国がコストを払ってリーダーシップをとるか、同盟国にコストを強要するかは予断を許さない。パリ協定、WHOにも復帰するとみられるが、国内の反対でイラン核合意やTPPには戻れないかもしれない。

中国との関係については、高度技術をめぐる規制や制裁関税による強硬姿勢は継続する一方で、地球温暖化問題などで協力を模索する可能性もある。日米関係は、バイデン氏が尖閣諸島の防衛義務にもコミットしたとされ、よいスタートとなった。

また、バイデン政権と議会との関係については、上院は共和党が優勢となる可能性が高く、下院でも民主党が議席を減らしていることから、両院への大統領の影響力は限定的なものとなろう。したがって、民主党色の強い法案も共和党色の強い法案も共に通過が難しく、その意味で大きな動きのない4年間になる可能性がある。

■ 大統領選挙後の中米関係(川島研究主幹)

米中対立は世界を二分する「冷戦」にまでは発展しないだろう。世界各国が争点ごとに協調・反目するというまだら状の対立になる。東アジアでは、安全保障、テクノロジー、価値観など多くの課題が集中する台湾が焦点となる。中国からは、日本は関係改善途上にあり、G7のなかではイタリアと並んで中国にやさしい国にみえている。米国との関係では、中国はオバマ政権期に提唱した新型大国関係の展開を期待している。

中国国内では、統治強化、経済回復、新型コロナウイルス対応に取り組んでおり、その過程で国家の安全の論理が前面に出てきている。これが中印国境、南シナ海、香港などでの強硬姿勢として表れている。

■ 大統領選挙後の欧米関係(秋元RUSI日本特別代表)

欧州は、ロシアに加え中国に対しても警戒感を強めている。NATOは、2019年のロンドン宣言に中国への警戒を明記した。また、中ロ間の連携に対する警戒感もある。

コロナ禍にあって欧州では、感染拡大の責任は中国の秘密主義的な体制にあるとの反発が生まれており、英国が中国との関係を見直しているほかフランス、ドイツも中国の対応を批判している。

それ以外のEU加盟国のなかでも中国に批判的な国が増えている。中国はこれに反発して、一部のEU加盟国への医療支援や貿易の抑制などを示唆した。フランス、ドイツはそれに対し、EU加盟国に対する脅迫は受け入れないと宣言した。

香港の民主化運動に対する中国政府の厳しい姿勢などもあり、欧州各国は日米主導のFOIP(Free and Open Indo-Pacific Strategy)に関心を示すようになった。バイデン政権がどのように欧州と連携するか注目される。

■ パネルディスカッション

国際関係の今後について、久保研究主幹は有志諸国による緊密な連携と日米間の認識のすり合わせの重要性を指摘した。バイデン氏勝利に対する中国側の見方については、川島研究主幹がオバマ政権のエンゲージ政策に近い政策が戻ってくるという期待があると説明した。さらに、欧州の対中姿勢については、秋元氏が各国で濃淡はあるが協調して対応するだろうと指摘した。

【21世紀政策研究所】