経団連は5月31日、宇宙開発利用推進委員会の企画部会(原芳久部会長)と宇宙利用部会(田熊範孝部会長)の合同会合を開催し、防災科学技術研究所(防災科研)の林春男理事長から、衛星利用と災害対策について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
防災科研は、わが国唯一の防災に関する国立研究開発法人である。「生きる、を支える科学技術」という価値観のもと、自然災害に対する予測力、予防力、対応力、回復力を総合的に向上させる研究開発を実施している。わが国では、21世紀前半に、南海トラフ地震や首都直下地震という国難級の災害が予測されており、衛星を利用して災害に対応する能力を向上させる必要がある。
衛星はリモートセンシング技術の一つとして、広域な範囲を定期的に撮影できる特徴がある。衛星の防災利用には、従来からの定点型観測と、新しい機動型観測の2つがある。
定点型観測は、衛星で同じ場所のデータを継続的に収集する方法である。衛星測位システム(GNSS)により、わが国の111火山のうち約100火山の地殻変動を定常的に観測している。また、観測衛星「だいち」(ALOS)が14日ごとに定点から火山の地盤形状の変化を観測し、年1回データを解析している。
機動型観測は、いつ・どこで災害が起きても、昼夜や天候に左右されずに早期に被害状況を把握する方法である。2019年に台風19号が深夜に北上した際、国際災害チャーター(注)からレーダ衛星「Sentinel-1」の画像を入手し、浸水の範囲と建物数を推定して地方自治体に提供した。
衛星の能力を空間と時間の2点で向上させる必要がある。衛星の空間分解能については、近年の災害の規模を踏まえ、10~20キロ四方を1メートルの解像度で把握することが求められる。時間分解能については、災害の発生後2時間以内に被害を推定し、24時間以内に高頻度で実被害を把握することが重要である。
国難級の災害に衛星を活用するためには、次の5点が重要である。第1に、基幹衛星を継続的に打ち上げて、複数機の体制を実現する。第2に、レーダ衛星の観測頻度を増加させる。第3に、災害時利用と平時利用を連携させる。第4に、衛星と地上のデータを組み合わせた解析技術を確立する。第5に、緊急観測依頼から衛星データ入手までの時間を短縮する。
政府は、府省庁横断で、国内外の衛星を災害時に戦略的に利用するための体制を整備する必要がある。防災科研が研究開発しているSIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)において衛星画像を利用し、国全体として効果的に災害に対応できることを目指している。
(注)国際災害チャーター=宇宙機関を中心とする国際協力枠組み
【産業技術本部】