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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2021年9月2日 No.3512 人権DDの推進に向けた日本企業の役割と責任 -労働法規委員会国際労働部会

経団連は7月28日、労働法規委員会国際労働部会(市村彰浩部会長)をオンラインで開催し、日本貿易振興機構アジア経済研究所の山田美和新領域研究センター法・制度研究グループ長から、「ビジネスと人権~デュー・ディリジェンス(DD)と労使関係」をテーマに講演を聴いた。説明の概要は次のとおり。

■ 世界の状況

2011年6月に「ビジネスと人権に関する国連指導原則」が国連の人権理事会で承認されて10年が経過した。この間、指導原則の具体化に向け、ビジネスと人権に関して各国政府、市民社会組織、投資家、消費者の意識が高まり活動が活発化した。近年は特にサプライチェーンにおける労働者の強制労働の問題が注目されており、6月13日のG7サミットコミュニケでも強制労働に対する言及があった。

15年にイギリスで現代奴隷法が制定されたのを嚆矢に、欧州を中心に各国で企業による人権尊重を促す政策として、人権DDの法制化が進んでいる。EUでは今秋、DDを義務とする指令が欧州委員会から提出される予定である。

■ 日本における動き

日本政府は20年10月16日、「『ビジネスと人権』に関する行動計画」を策定・公表した。同計画では、日本企業に対し、国際的人権を尊重し、指導原則の国際的なスタンダードを踏まえ、人権DDの導入、サプライチェーン上を含むステークホルダーとの対話、効果的な苦情処理の仕組みによる問題解決への期待を表明している。21年6月には東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂し、人権尊重を明記した。7月には経済産業省が「ビジネス・人権政策調整室」を設置した。

日本にとって人権尊重に関し、国内外の取引先、投資家からの信頼を得ることが重要である。わが国は、米国の人身取引被害者保護法第104条に基づく報告書21年版において、昨年に続き「政府の対策が最低基準を満たしていない」(Tier2ランク)とされた。海外でのリスクだけでなく、日本国内においても人権が問題視されていることに留意すべきである。

■ 日本企業に求められる役割と責任

アジアにおいて人権が十分に保障されていないなかで、日本企業が果たすべき役割は大きい。人間尊重の考えや経営の透明性、徹底した説明責任、建設的な企業内労使関係は、日本企業の強みであり、このことを海外の取引先に伝えていくことは可能である。積極的に、望ましい社会対話のあり方をアジアの国々に伝えていく責任を担ってほしい。

人権DDはあくまでツールにすぎない。マルチステークホルダーとの寛容な話し合いやコミュニケーションがあって初めてリスクが特定され、対応が可能となる。関係者が自由に話せる状況をつくり真の人権DDの実現、ひいては真のエンゲージメント向上を目指していくべきである。

【労働法制本部】

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