経団連は8月25日、消費者政策委員会(渡邉光一郎委員長、杉山博孝委員長)をオンラインで開催し、デジタル時代における消費者政策について、京都大学大学院経済学研究科の依田高典教授から、行動経済学の観点から聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
近年、デジタルプラットフォーム企業が介在する消費者取引が増加するなか、米国やEUでは、プラットフォーマーに対する競争政策、消費者保護政策の整備が進んでいる。わが国では、中小企業が多い、出店事業者の保護を主眼とする「デジタルプラットフォーム取引透明化法」が今年2月に施行された。
商品・サービスの交換・決済等が仲介されるデジタルプラットフォーム上では、利用者が多いほど利便性が向上する「ネットワーク効果」が働く。この効果を利用して、無料の検索サービスの提供を通じて利用者を拡大し、多くの企業から広告を集めることで、世界規模のプラットフォーマーが台頭してきた。
その背景には、行動経済学が想定する人間のバイアスや「限定合理性」がある。これを応用し、ナッジ(誘導)で人間の行動に影響を与える手法は、政策にも採用されつつある。
人間には、同額の金銭を得るときよりも支払うときに数倍の精神的苦痛を感じる「損失回避性」があり、無料のビジネスに弱い。また、現状を維持しようとするバイアスもあり、商品・サービスを利用する際、利用規約をあまり読まずに同意する人が少なくない。
こうした消費者を保護すべく、デジタルプラットフォームを介したB to C取引における消費者保護を目的とする新法が今国会で成立した。同法には、プラットフォーマーが販売業者と消費者の紛争解決に取り組む努力義務、政府による危険商品等の出品停止要請、消費者が販売事業者の情報開示を請求できる権利等が盛り込まれた。あわせて官民協議会を設置し、悪質な販売事業者等への対応など各主体が取り組むべき事項等を協議することとした。
同法と前述のデジタルプラットフォーム取引透明化法は、ビジネスが急速に進化するデジタル分野において、民間企業の自主的取り組みを促進しつつ、関係者間で課題を共有し、官民で市場をモニタリングするという「共同規制」を導入している。法律による強制的手法によらず、こうした枠組みが機能するかの試金石となろう。
今後も、デジタル広告やC to C取引の消費者の保護、個人情報やプライバシーの保護などの多くの課題がある。これらの法律に基づく取り組みは、デジタル時代の消費者政策の第一歩である。
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意見交換終了後、会合では、コロナ禍を受けた消費者の行動や意識の変化と企業の取り組みに関する報告書案について、青木秀子同企画部会長から報告があった。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】