経団連は9月7日、髙瀨寧駐メキシコ日本大使との懇談会をオンラインで開催し、就任後3年が経過し任期後半に入るロペス・オブラドール大統領が進める「第4次変革」の確立に向けた政策や成果、今後の展望について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ これまでの政策を転換、内政と外交で独自の政策を推進
ロペス・オブラドール大統領は就任以来、「第4次変革」を掲げ、「腐敗したエリート層」ではなく、一般の「民衆」のために政治を行うとし、内政にかかる主要政策(汚職撲滅、治安改善、社会政策、地域開発)をトップダウンで進めてきた。2019年末までに憲法改正を含む法整備、制度構築等を実施し、変革の土台を固めた。外交では米国との良好な関係維持に努めている。また、近年、中国が急速に経済成長を遂げ、対メキシコ投資や新型コロナウイルスをめぐる外交でも存在感を高めている。こうしたことから、メキシコ政府は、中国とのバランスを取るべく、米州の経済統合強化を提唱している。
■ 経済政策の特徴
現政権は、産業政策よりも社会政策を優先している。エネルギー政策では、石油公社や電力公社の民営化に反対し、20年3月と5月に法改正を行ったが、裁判所が憲法違反を理由にその効力を停止している。
また、財政規律を確保しつつ、マクロ経済の安定と自由貿易政策を維持する方針である。自動車産業等における外資の重要性を認識し、20年7月に発効した米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を通じた北米市場の強化が肝要と位置付けている。USMCAに対応すべく、労働政策では、20年5月に労働者の権利を強化する法改正を行った。USMCAは発効から1年が経過し、概ね順調に運用されているが、原産地規則の解釈や労働分野をめぐり協定国間の協議等がなされており、今後の動向に注意が必要である。
■ 新型コロナへの対応状況とメキシコ経済
現地では、新型コロナの感染が拡大した20年4~5月に、必要不可欠な経済・労働活動以外は操業を禁止する緊急事態宣言が発出されたが、同年6月以降は経済活動が徐々に再開されており、都市封鎖や空路での国際移動に対する制限は行われなかった。メキシコ政府は中国、ロシア、米国からワクチンを調達し、18歳以上の国民への1回目の接種を10月中に完了するとしている。
20年のメキシコ経済は、新型コロナの影響を受け、実質GDP成長率が前年比8.2%減となった。しかしながら、21年は米国経済の回復とともに好転しつつあり、メキシコ中央銀行は、実質GDP成長率6.2%増を予想する。エネルギーや食料の価格高騰により、インフレ率および政策金利の上昇などがみられるものの、マクロ経済は概ね堅調に推移している。
■ 政権への評価と日墨関係の展望
犯罪件数が高止まりするなど、治安対策は道半ばであるものの、約60%の国民がロペス・オブラドール大統領を支持している。これを支えに、与党連合は今年6月の連邦下院議員選挙で過半数の議席を維持した。
ロペス・オブラドール大統領は、「第4次変革」の確立に向け、残り3年の任期において、憲法改正や予算の確保を通じ、治安対策やインフラプロジェクトの完工、エネルギー改革などに取り組むとみられる。
茂木敏充外相は、21年1月に訪墨し、メキシコの外相および経済相と戦略的グローバルパートナーとしての協力強化を確認した。また、ビジネス環境整備の必要性など、日本企業の意見を伝えた。今後、日墨社会保障協定の締結、日墨EPAのもとでのビジネス環境整備委員会の開催なども検討していきたい。
【国際協力本部】