経団連の観光委員会(菰田正信委員長、新浪剛史委員長、武内紀子委員長)は、政府が定める「観光立国推進基本計画」への経済界意見の反映や、ウィズコロナにおける観光再開をテーマに活動している。9月7日には、観光庁の村田茂樹次長から今後の観光政策の方向性について、また、沖縄県で新型コロナウイルスの感染拡大防止に取り組む沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科の高山義浩副部長から、沖縄の出口戦略における視点と課題について聴くとともに意見交換した。
村田氏は、コロナ禍での観光業界やMICEをめぐる状況、政府による支援策などについて説明。依然として観光業は厳しい状況にあるものの、国内外の旅行意欲は高く、特に海外から旅行の目的地として「日本はトップ」であることを紹介した。
そのうえで、国内外の往来の再開時に需要を取り込めるよう、わが国特有の気候・自然・食・文化を活かしたコンテンツの発掘と磨き上げによる高付加価値化、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進による新しい観光コンテンツの創出や観光産業の生産性向上などに取り組むべきことを強調。また、「新たな旅のスタイル」として定着を目指すワーケーションについては、企業と地域のマッチング事業を通じて有効性を発信し、拡大するとした。
こうした取り組みを念頭に、来年度予算は一般財源で前年度比1.2倍の177億円を要求しており、深刻な状況にある観光産業や地域を支援するとともに、ポストコロナの旅行需要を多面的に喚起していくと意欲を示した。
高山氏は、感染症と地域医療を専門とする立場から、新型コロナの世界の流行状況と対策についてデータを交えて紹介。ワクチン接種の進展だけで流行を阻止することは困難であるが、「流行しにくくなり、相対的に重症者の減少が期待できる」と指摘した。また、「厳しい行動制限をかけずとも、流行が起こりにくくなるだろうが、それでも一定以上の流行になれば、感染の抑制は制御不能となり、重症者が急増して医療が逼迫する」との見解を示した。
また、沖縄県では「本土における流行」「本土からの渡航者の増加」「渡航者と県民の接触」の3つの要素がそろうと流行が始まること、活発な「県民相互の交流」により急速に拡大すること、県民との接点の多い渡航である帰省や出張による二次感染が多いことを指摘。感染源として観光客が注目されがちであるものの、感染ルートの決め付けは対策の実効性を低下させると強調した。
沖縄での観光再開に向けた制限緩和については、「緊急事態宣言の効果は宣言期間の長期化に伴ってその有効性が薄れていく。適宜解除して県民が『息継ぎ』できる状況をつくり、感染予防策などを立て直すことが重要」と述べた。行動制限を段階的に緩和する際の要件として、(1)流行が一定の規模に収まっていること(2)医療機関での受診制限や手術延期等が解除されていること(3)リバウンドを抑止する施策の運用、すなわちワクチン接種証明書等の運用開始を挙げ、特に(3)が重要と指摘した。
感染した観光客が入境することで、地域医療を消費する、あるいは感染拡大をもたらすことが、受け入れ側の不安であるとした上で、その対策として、ワクチン接種証明または渡航前PCR検査による陰性確認、島内のホテルやアクティビティーでの抗原定性検査キットの活用などを挙げた。さらに、観光における感染源の把握のため、本土に戻った後も、症状が認められる場合は検査を受けてもらうことを提案した。
流行を防ぐためには、人流抑制や観光施設の閉鎖を一律に行うことではなく、ワクチン接種の促進とともに、これまでの流行から確認された感染リスクの高い箇所について適切な対応を講じること、つまり「できることをやるのではなく、やるべきことをやる」ことだと強調した。
【産業政策本部】