経団連の金融・資本市場委員会(太田純委員長、日比野隆司委員長、林田英治委員長)は9月2日、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の宮園雅敬理事長との懇談会を開催し、GPIFのESG(環境・社会・ガバナンス)投資およびスチュワードシップ活動について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ GPIFの役割と運用
GPIFは、広範な資産を持ち資金規模の大きい「ユニバーサルオーナー」かつ年金制度の一端を担う「超長期投資家」である。そのため、負の外部性(環境・社会問題)を最小化し、資本市場はもとより社会全体がサステイナブルに成長することが、GPIFのリターン向上につながる。この観点から、GPIFでは、「長期的なリターンの向上」に向け、運用会社に対して「建設的な対話」を促すことで、GPIFのスチュワードシップ責任を果たすべく努めている。また、いち早くESG投資の重要性に着目し、国内外のESGイニシアティブへ参加するとともに、ESG指数に基づき約10兆円をパッシブ運用している。
こうしたなか、経団連とも協力し、経団連・東京大学・GPIFの3者で共同研究を行い、2020年3月に「ESG投資の進化、Society 5.0の実現、そしてSDGsの達成へ」と題する報告書を公表した。この共同研究により、「Society 5.0 for SDGsに資する企業の取り組みは環境および社会の持続可能性と経済の持続的な成長に資する」ということが、定量的にも定性的にも確認できた。
■ ESGに関する効果測定
GPIFで採用するESG指数について、ESGを評価する会社(評価会社)にその手法を公開するよう求めている。こうした活動もあって、評価会社と企業との間で対話を実施する割合は増加している。また、日本企業によるESGの取り組みや、評価会社からの評価は向上しているが、評価の統一性などの課題もある。
また、GPIFでは、毎年、自らのESG活動報告に加え、気候変動についてはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿って情報を開示している。GPIFのポートフォリオをいわゆる「2℃シナリオ」でリスク分析すると、エネルギー産業における気候変動に対するリスクが最も高い。他方、「機会」という意味では、同産業が最もGHG(温室効果ガス)削減による機会を得られることもわかった。気候変動に関するリスクと機会の分析はいまだ途上だが、継続的に取り組みたい。
■ スチュワードシップ活動に関するアンケート結果
今年1~3月に実施した「第6回機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート」では、経団連の協力により回答社数が過去最多となった。今回の調査結果では、企業の長期ビジョンの想定期間がさらに延伸し、従業員の健康や安全などS(社会)に関するテーマの対話が増加するなどの傾向がみられた。また、気候変動および環境市場機会に関する関心の急速な高まりも把握できた。なお、企業の認知度に関して、「SDGs(持続可能な開発目標)」はほぼ100%、「Society 5.0 for SDGs」は約40%、「企業行動憲章実行の手引き」は約30%という結果となった。経団連のSDGs/ESGの取り組みは多くの企業に影響を与えており、今後の取り組みが加速することに注目している。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】