経団連は10月13日、アジア・大洋州地域委員会ASEAN経済連携強化部会(田中秀幸部会長)をオンラインで開催し、駐日シンガポール大使館のロウ・ホンムン首席公使ならびにアイザック・リー一等書記官からシンガポールのデジタル政策について説明を聴くとともに懇談した。
冒頭あいさつにおいて、ホンムン首席公使は、「シンガポールと日本は、外交関係を樹立して以来50年強の間、さまざまな分野で協力関係を構築してきており、最近は、グリーンやデジタル分野での協力も進んでいる。日本との双方向の連携・協力を通じて、両国関係を一層深化させていきたい」と述べた。
続いて、リー一等書記官からシンガポールのデジタル政策について説明があった。概要は次のとおり。
■ スマートネーション構想を推進
シンガポールは過去数十年にわたり、デジタル化を経済・社会双方にとって重要な政策と位置付け、積極的に取り組みを進めてきた。そうしたなか、2014年にリー・シェンロン首相は、「デジタル政府」「デジタル経済」「デジタル社会」の3つの柱から成るスマートネーション構想を公表した。
「デジタル政府」は、デジタルを用いた強靱な公共部門の構築を目指すものである。貿易の電子化や支払いに関する電子プラットフォームの構築、技術を用いたインフラのオーバーホール(点検・補修)などを進めている。公務員の研修・訓練も実施し、スキルアップを図っている。「デジタル経済」は、デジタル化によって経済を活性化させる取り組みである。とりわけ中小企業にとって、イノベーションを生み出すためのエコシステムの構築は重要であり、スタートアップ企業がシンガポールからアジア、世界に事業範囲と規模を拡大できるよう規制緩和など環境整備を進めている。「デジタル社会」の構築は、従前、取り組んできた分野であり、今回のコロナ禍で濃厚接触者の特定、施設への入場、マスク配布等の場面で大いにその力を発揮した。また、国家を挙げて、エンジニアやテクノロジーに精通した人材の育成に取り組んでいる。
■ デジタル経済協定と日星協力の展望
シンガポールは、チリ、ニュージーランドとの間でデジタル経済パートナーシップ協定、オーストラリアとの間でデジタル経済協定を締結している。デジタル経済協定は、国境を越えるデータの安全な流通の確保などを通じてデジタル貿易の促進を図るとともに、フィンテックなどのデジタル分野の協力を推進するものである。グローバルにデジタル経済が広がるなかで、デジタル経済協定は、企業がより安心して安全にビジネスを実施できる環境を提供するものであり、企業にとって大きなサポートになるだろう。
現在、韓国やイギリスと協定締結に向けて交渉中であるが、同様の考えを持つ他の国とも交渉を進めていきたい。
シンガポールと日本は価値観を共有するパートナーである。デジタル経済の基本合意ができれば、両国間のデジタル分野における相互接続性が高まる。越境データ取引等について、当局者間での検討を進めることが重要である。
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説明の後、シンガポールが進める医療・ヘルスケア分野におけるデジタル技術の活用、都市全体を仮想空間化する「バーチャル・シンガポール」のねらい、デジタル経済協定の今後の展望をめぐり、活発に意見を交わした。
【国際協力本部】