経団連の中国委員会企画部会(藤末浩昭部会長)は、2022年に日中国交正常化50周年の節目を迎えるにあたり、日中関係の安定と一層の発展に向けて、長期的な日中経済関係のあり方や課題を検討すべく勉強会を開催している。10月6日および21日に実施した会合の概要は次のとおり。
■ 中国経済および産業構造の変遷
(丸川知雄東京大学社会科学研究所教授)
15年に国務院が公布した「中国製造2025」は、大きな注目を集めた。10の重点分野とともに、ハイテク製品とその基幹部品の国産化割合の引き上げが掲げられたが、現在、当該政策を事実上放棄したと考えている。その根拠として、(1)21年から始まる第14次五カ年計画において「中国製造2025」やハイテク製品の国産化について言及がなされていないこと(2)IC(集積回路)国産化の目標が到底達成できる見込みがないことを受け、目標の存在を否定する報道がなされていること(3)中国企業の育成のために強力な保護政策がとられてきた新エネルギー自動車分野において、18年以降、外資単独出資による進出が認められ、国産電池の優遇策が撤廃されたこと――などが挙げられる。
他方、第14次五カ年計画では、国家プロジェクトとしてIC分野の研究開発推進や、サプライチェーンの安全性と強靱性を向上するための方針が盛り込まれた。ハイテク分野で他国からの供給停止に耐え得るサプライチェーンを構築するという中国政府の意志は継続している。
中国のCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)加入申請については、米国への牽制のためのポーズにすぎないなど中国側の本気度に疑念ありとする向きもある。しかし、こうした議論自体に意味はない。むしろCPTPPの高い水準に合わせ、中国に改革を促すチャンスととらえるべきである。
■ 習指導部の内政・外交課題=「不安全感」のなかの大国
(加茂具樹慶應義塾大学総合政策学部教授)
習近平指導部にとって最も重要な政治課題は、安定して安全な国内・国際環境を維持し、経済発展を実現するための条件を整えることである。しかし、長期にわたる高度成長は頭打ちとなり、習指導部は、経済成長を求める社会の要求に応え社会の安定を維持し続けられるかどうかという「不安全感」を持っている。その「不安全感」を克服するために、指導部は、共産党による政治体制の優位性を喧伝し、中国社会にとってふさわしい(正統な)政治体制であることを社会に認識させようとしている。
また、中国の成長や米国の相対的な国力衰退などによって国際政治のパワーバランスも変化した。既存の国際秩序であるパクス・アメリカーナに対する「不安全感」を克服するため、中国は、外交政策について、従来の既存秩序への適応から、自国の要求を既存の国際秩序に埋め込み、自らの発展に適した国際環境を構築するために自己主張する方向へと変化させた。これが「大国」外交である。習指導部がいう「大国」とは、軍事力や経済力の大小を表すものではなく、「世界平和に影響を与える決定的なパワー」を有することである。同指導部は、その「大国」をかたちづくるパワーとして、既存の国際制度において自国の言説を強制せずに受け入れさせる力、すなわち「制度性話語権」の拡大を追求している。そのための取り組みとして、世界銀行や国際通貨基金などがつかさどる既存の国際制度における議題設定権や議決権を拡大するとともに、一帯一路やアジアインフラ投資銀行などを通じて中国主導による国際制度を構築しようとしている。また、深海底やサイバー、極地、宇宙などの新領域における国際制度の構築を先導している。
習指導部による内政や外交は、安心できる国内・国際環境にないという「不安全感」に動機付けられ、今後も展開されるであろう。
【国際協力本部】