経団連は10月27日、東京・大手町の経団連会館でカナダ委員会(植木義晴委員長、藤本昌義委員長)を開催し、今年6月に着任したイアン・マッケイ駐日カナダ大使から、カナダの政策的優先事項などについて説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 日本との関係
日本政府、国民の皆さまが、コロナ禍で東京オリンピック・パラリンピックを成功裏に開催したことに対し、カナダ政府を代表して感謝する。「東京2020」は厳しい状況にありながらも、活力と団結力を世界中に示した。
カナダは明治時代から日本に木材を輸出し、1920年代には米国、フランスに次いで公使館を開設するなど、日本との関係は長い。私自身も高校時代にロータリークラブの交換留学生として山口県下関市に1年間滞在し、その後、金融業界に就職して東京に10年間駐在するなど、日本との関係は40年以上に及ぶ。このたび、駐日大使として戻ってくることができ、光栄に思う。
■ 安全保障
国連による対北朝鮮制裁の実効性を確保すべく、カナダは日本と共に違法な瀬取りの防止等に協力している。また、10月上旬には「自由で開かれたインド太平洋」の一環として海上自衛隊ならびに米、英、豪州、ニュージーランド、オランダの海軍と共にフィリピン沖での合同演習に参加した。
■ 新型コロナ対策
カナダは日本と同様、COVAXを通じたワクチン提供に貢献している。国内のワクチン接種率(12歳以上)は84%を超え、9月には、接種済みの旅行者について、ビジネス、観光を問わず隔離期間なしでの入国を再開している。経済対策も概ね順調であり、就業率は新型コロナウイルス感染拡大以前を上回っており、今年度の成長率は6%を見込んでいる。
■ 気候変動対策
2050年カーボンニュートラルは日加共通の目標である。これを達成すべく、19年に炭素税を導入しており、30年には1トンの排出に対し170カナダドルが課税される見込みである。他方、ゼロエミッション技術の開発、グリーン水素、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)に対しては税制上のインセンティブを導入している。このほか、電気自動車、水素自動車の生産にも力を入れている。特にカナダはバッテリーの原材料となる資源が豊富にあるため、日本企業にとってもビジネスチャンスである。
■ イノベーション
トロントは、北米でシリコンバレーに次ぐテッククラスターとして注目を集めており、今後、AI、量子コンピューター、自動運転などの分野における日加連携も期待される。日本企業にとってカナダのイノベーション・エコシステムは大きなビジネスチャンスである。官民連携によるイノベーションを推進すべく、80億カナダドル規模のファンドも用意している。
■ 貿易政策
カナダは日本同様、自由貿易を推進しており、あらゆる保護主義的措置に反対する。多国間枠組みであるWTO改革を推進することが重要であり、経団連が9月に提言「第12回WTO閣僚会議に期待する」を公表したことを歓迎する。中国との関係は複雑である。確かに、今年度の対中輸出は前年度比18%増となるなど、同国はカナダにとって重要である。一方、中国がCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を含め、自由貿易の基準を満たすことができるのか懐疑的な面もある。仮に中国がCPTPPに加入する場合、現在の基準を一切下げないことが不可欠である。
■ 経済安全保障と二国間連携
カナダは日本にとって、エネルギー、重要鉱物や食料等の供給源としての役割を担っている。日本はカナダにとって、インド太平洋地域における最も親しく信頼できるパートナーである。今後、インド太平洋地域への影響力を最大化し、また経済発展に貢献するため、カナダと日本の両国はより緊密に連携すべきと考える。
【国際経済本部】