経団連は11月29日、「過労死等・ハラスメント防止対策セミナー」をオンラインで開催した。政府の「過労死等防止対策推進協議会」の専門家委員を務める川人博弁護士(川人法律事務所)と木下潮音弁護士(第一芙蓉法律事務所)が講演した。企業の人事・労務担当者など約310名が参加した。概要は次のとおり。
■ 過労死ゼロの社会を~企業に求める過労死等防止対策(川人氏)
過労死・過労自殺は30年以上前からの深刻な問題であるにもかかわらず、いまだ後を絶たない。最近は新型コロナウイルス感染症への対応に伴い、医療・介護をはじめ多くの業種で過重労働が続いている。
過労死やハラスメントは業務不正と同時に発生することが多く、職場の病理の表れといえる。また、過労死の多くは新規部門や業績困難部門、繁忙部門で発生している。企業の経営幹部は会社全般の長時間労働の是正に取り組むだけでなく、個別職場の改善にも目を向けるべきである。
過労死防止の最大のカギは、十分な睡眠時間の確保である。各企業には、退勤から翌日の出勤までに11時間以上の休息を確保する「勤務間インターバル規制」を速やかに導入するよう求めたい。同時に、テレワークには長時間労働や深夜労働を招き、労働から精神的に解放されないリスクがあるため、本格導入にあたり、就業規則・労働協約等の改定や労働環境・勤務条件の整備が不可欠である。
過労死・ハラスメントの防止は企業経営にとって優先すべき重要テーマである。トップをはじめ経営陣がこの問題に正面から取り組み、働く者の健康を増進し、生き生きとした職場づくりを進めてほしい。
■ 職場における過労死等・ハラスメント防止対策(木下氏)
厚生労働省は昨年5月に過労自殺、今年9月に過労死の労災認定基準を改正し、それぞれ、(1)長期間の過重業務による労災認定に際して労働時間とそれ以外の負荷要因を総合評価することの明確化(2)業務による心理的負荷評価表(出来事の類型や心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」で判断する具体例を盛り込んだもの)におけるパワーハラスメントの明示――等を行った。
今年度の「過労死等の労災補償状況」によれば、精神障害の発病要因として、ハラスメントに関する出来事が上位を占める。企業が取り組むべき課題は、長時間労働とハラスメントの防止といえる。
長時間労働の防止には労働時間の管理が重要となる。厚労省が2017年に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を踏まえて対応すべきである。特に、コロナ禍におけるテレワークの普及に伴い、事業場外でのパソコン等の使用時間を記録し、労働時間と認定することが重要である。
ハラスメントについては、昨年6月からのパワーハラスメント防止対策の義務化を踏まえ、セクシュアルハラスメント等とともに共通の対策強化が必要である。労働者からの相談に適切に対応するための体制整備やハラスメント事案にかかる事後の迅速・適切な対応等、各種指針が定める防止措置を講じるとともに、事業主と労働者の双方が自分ごととして対策に取り組むことが大切である。
従業員が安全で健康に働き続けられるようにすることは社会に対する企業の責務であり、持続的な企業経営のために必要不可欠である。SDGs(持続可能な開発目標)の目標8「働きがいも経済成長も」の実現に向けて、過労死等の対策を進めてほしい。
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両氏の講演後、主催者を代表して椋田哲史経団連専務理事があいさつ。「過労死は絶対にあってはならない」としたうえで、参加者に対し、長時間労働の削減やハラスメントの防止、労働時間の適切な把握、勤務間インターバル制度の導入等、自社の実態に応じた必要な取り組みを行うよう呼びかけた。
【労働法制本部】