経団連の中国委員会企画部会(藤末浩昭部会長)は、2022年に日中国交正常化50周年の節目を迎えるにあたり、日中関係の安定と一層の発展に向けて、長期的な日中経済関係のあり方や課題を検討すべく、勉強会を開催している。11月4日、25日および26日に開催した会合の概要は次のとおり。
■ 習近平政権期の日中関係(学習院大学法学部・江藤名保子教授)
中国が改革開放政策を始めて以来、日中両国は歴史認識をめぐる政治摩擦と、経済関係を重視した関係改善のサイクルを繰り返してきた。だが10年代には尖閣諸島をめぐる摩擦が恒常化し、段階的に関係は悪化した。この緊張緩和も視野にODAに代わる経済協力が打ち出され、競争と協力が併存する構造へと移行した。20年代に入ると米中対立の深化を背景に、日中関係は民主主義国家と権威主義国家の体制間競争の枠組みと重複するようになった。
こうした日中関係の構造的変化と並行して、中国をめぐる国際情勢も変化している。欧米は台湾に接近し、中国国内では米中対立を端緒とする経済ナショナリズムの高揚がみられる。
現在の日中関係では安全保障情勢に対する懸念が強く、協力を打ち出しにくくなっている。中国と対話することで共通の危機認識を醸成し、衝突を回避するメカニズムを再構築する必要がある。
■ 日中間の認識ギャップリスク(東京大学公共政策大学院・高原明生教授)
日中両国には、日中戦争の評価、時の首相による靖国神社参拝などをめぐる歴史認識問題、尖閣諸島情勢などに関して認識に相違が生じている。これは、マスメディアの報道や、中国共産党の宣伝により、両国で事実が必ずしも正確に認識されていないことに起因する部分もある。認識ギャップを回避するには、正しい知識の学習とその普及が欠かせない。また、日本企業が中国で事業活動を行う場合、日中戦争をはじめとする歴史上の重要な日を理解し、注意を払うべきである。双方の間に認識ギャップがある場合、認識の違いを指摘して誤解を解くことが必要であり、そのために冷静で誠実、かつ論理的な語り口を習得することが不可欠である。
■ 中国と日本・アジアにおける貿易取引の変遷と展望(みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部アジア調査チーム・伊藤秀樹上席主任研究員)
中国の技術的発展に伴い、日本の対中輸入依存度が高まった。依存度が極端に高い品目も多数存在していることに加えて、代替調達が困難な医薬・医療関連、レアアース等の素材関連、電子機器・部品の一部は、サプライチェーン上のリスクとして認識する必要がある。
中国政府は、持続的成長に向け、内需主導型経済への転換に注力する方針を掲げている。社会保障改革等の推進に十分な進展がみられる場合、30年には中間層が現状の5割強から7割に拡大し、個人消費の規模は20年比でほぼ倍増する見込みである。1人当たり所得の底上げにより、消費の中心は物品からサービスに移行し、特に、交通・通信、医療・保険、教育・文化・娯楽での消費の拡大が予想されるほか、対中輸出機会の増大も期待される。
ASEAN諸国やインドにおける対中貿易および対内直接投資は、近年拡大傾向にある。対中輸入品目とその中国依存度を分析すると、各国主要産業のサプライチェーンにおける中国の影響力の強さは一目瞭然である。先のASEAN中国特別首脳会議において、中国は、ASEANとの経済関係を包括的戦略パートナーシップへ格上げするなど、アジア重視を鮮明にしており、今後も同国の影響力は拡大していくだろう。
【国際協力本部】