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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年2月10日 No.3532 RCEP協定を通じた日中韓の貿易自由化の展望

久野氏

経団連は1月12日、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に関する会合を開催した。亜細亜大学国際関係学部の久野新教授から、RCEP協定を通じた日中韓の貿易自由化について説明を聴くとともに質疑応答を行った。概要は次のとおり。

■ RCEP協定発効は日本にとって大きなメリット

RCEP協定発効以前の日中韓3カ国間の貿易総額は6200億ドルに上り、その47.5%の3000億ドルが課税対象となっていた。日本から中国、韓国への輸出に対する課税割合が高く、関税支払い額も日本が最も大きい。中韓の間では2015年末にFTAが発効した。しかし、日中韓の間では、12年11月にFTA交渉が開始されたものの、19年11月を最後に交渉が途絶えている状況である。

日中韓がそろって参加するRCEP協定の発効により、日本から中国、韓国に向けた多くの輸出品において、関税面での不利益が解消される。また、国連貿易開発会議(UNCTAD)の調査によれば、協定発効により見込まれる域内の輸出増加約200億ドルの約半分が日本によって実現される。日本は、RCEP協定の発効によって最も多くのメリットを享受する見込みである。

■ 漸進的な貿易自由化と複雑な関税構造

RCEP協定の物品貿易章では、関税の撤廃が原則とされず、同章の第二・四条で「関税の引き下げ又は撤廃」と明記されるなど、「漸進的な自由化」を目指すものとなっている。

そのうえで、全締約国が一律に関税を引き下げる「域内無差別原則」は採用されていない。相手国に応じて異なる税率・自由化速度を約束する「国別譲許方式」を採用する国が日中韓を含め7カ国、全域内国に対して同じ税率・自由化速度を約束する「共通譲許方式」を採用する国が8カ国となっている。こうした柔軟性を許容したことでRCEP交渉は妥結に至ったが、その代償として域内で税率格差が生ずるなど、協定の利便性は一部損なわれることとなった。

また、一部の国が国別譲許方式を採用した結果、域内迂回貿易を防止するための税率差ルールが採用されている。すなわち、域内で税率の低い国を経由して輸出されることを防ぐため、生産工程が「軽微な工程」であってはならないとするなどのルールが規定された。日本は2802品目を税率差ルールの対象としており、関税の構造が複雑になっている。

■ 日中韓の貿易自由化の進展と課題

RCEP協定全締約国の平均関税撤廃率は91%であり、特に、日中韓とCLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の関税撤廃率が低い。日本の関税撤廃率は品目ベースで対中国は85.5%、対韓国は80.7%、その他の国に対しては87.8%となっており、TPPの関税撤廃率95.1%と比べると保守的である。しかし、これは主に農林水産品の自由化水準の低さに起因するものであり、工業製品の自由化水準は高く、域内の国際分業のさらなる進展が期待される。

日中韓は地理的に近接し、それぞれの市場規模を考えると、今後も3カ国貿易の重要性は低下しない。現在、経済安全保障の議論が盛んであるが、貿易による経済的実利との関係をしっかり整理したうえで、自由化を進めていくことが重要である。

【国際協力本部】

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