約10万人のロシア軍がウクライナ国境付近に集結しているとされる問題を受けて、バイデン政権は、外交的解決を模索しながらも、侵攻が生じた場合のアメリカの対応が「強力かつ結束」したものになると強調している。こうした方針を確かなものにするためには、アメリカとウクライナの結束や、アメリカと欧州諸国の結束とともに、アメリカ国内の結束が重要になってくる。しかし現状においては、国内の結束を損なうような不安要素がいくつか顕在化している。
ウクライナ問題へのアメリカの対応は、ロシアに対する非軍事的な圧力と、軍事的な圧力に大別できる。前者の例としては、ロシアへの経済制裁があり、後者の例としては、ウクライナへの武器供与や周辺地域へのアメリカ軍派遣がある。このうち、特に軍事的圧力については、アメリカ国内で早くも足並みの乱れが目立っている。ここで思い起こす必要があるのは、民主・共和両党において、対外関与に慎重な勢力が近年伸長していることである。
まず民主党に関していうと、ウクライナを支援し、ロシアを非難する姿勢そのものは、党内で概ね共有されている。しかし軍事的手段を通した対ロシア圧力については、左派勢力から懸念の声が上がっており、党内で立場の隔たりが顕在化している。例えば、連邦議会のプログレッシブ・コーカスで会長を務めるプラミラ・ジャヤパル下院議員は、バーバラ・リー下院議員との連名の声明で、軍の派遣や武器供与への懸念を表明した。バーニー・サンダース上院議員も、英紙ガーディアンへの寄稿で同様の考えを示し、加えて、アメリカ歴代政権が進めてきたNATO拡大の問題点も指摘した(サンダース氏は1990年代においても拡大に反対していた)。
また、左派勢力が武器供与に反対するもう一つの理由は、ウクライナ国内のアゾフ連隊の存在である。アゾフ連隊は、ウクライナ東部紛争(2014年)に参加した義勇兵により結成されたウクライナ政府側の部隊であるが、白人至上主義との一定のつながりも指摘されており、この点を左派勢力は問題視してきた。連邦議会においても、ロー・カンナ下院議員らが、供与した武器が同部隊に渡らないよう求める活動を続けてきた。
他方、足並みの乱れがみられるのは、共和党の側も同じである。議会共和党では、ウクライナ支援と対ロシア圧力のさらなる強化を求め、バイデン政権の対応の「不十分さ」を批判する声が主流である。例えば、ノルドストリーム2(ロシアとドイツをつなぐパイプライン)に関する制裁については、ドイツとの結束を重視するバイデン政権が、「侵攻が生じた場合」に発動するとの方針であるのに対し、共和党議員の多くは即座の制裁発動を求めている。
しかし共和党のなかには、これと全く逆の動きもみられる。フォックス・ニュースのタッカー・カールソン氏は「一体なぜアメリカはウクライナの側に立つのか。なぜロシアの側に立たないのか」と述べ、NATO拡大についても、ロシア側の懸念に共感するような発言をした。連邦議会でも、「ロシアによるウクライナ侵攻は、アメリカに対する身近な脅威ではない」とするポール・ゴサール下院議員など、同様の立場をとる共和党議員がいる。こうした対ロシア融和的な立場が、共和党のなかで散見されるようになった背景については、トランプ前大統領の影響を指摘する声がある。
バイデン政権はここまで「中間層のための外交」を掲げ、対外関与に慎重な両党内の勢力と、その背後にあるアメリカ世論を強く意識して、外交課題に対処してきた。しかしアフガニスタンからの撤退(21年)に際しては、「国の面目」を重視する中間層の心理を見誤って、自ら支持率の低下を招いたとの指摘も出された。このたびのウクライナ問題では、同様の事態を回避できるのか。また、国際的な結束とともに、国内の結束を演出することができるのか。アメリカ国内の問題としては、こうしたことが今後の注目点になってくるであろう。
【21世紀政策研究所】