経団連は1月18日、提言「Society 5.0時代のヘルスケアⅢ~オンラインの活用で広がるヘルスケアの選択肢」を公表した。同提言の内容について、具体的な取り組みも交えながら紹介する。第4回は、「手術」を取り上げる。
■ 社会的意義
「遠隔手術支援」―遠く離れた場所の熟練医師が術者として、患者のそばで手術ロボットを操作する医師を支援する―が近い将来、実現する。これにより、熟練した医師が存在しない地域に住む患者も、居住医療圏の施設にいながら質の高い手術を受けることができる。地方に勤務する経験年数の少ない医師は、遠隔手術システムを通して、勤務地にいながら熟練した医師から指導を受けることができる。指導医にとっても、手術指導に伴う長距離移動の負担が軽減され働き方改革につながる。その結果、地域医療の維持に好循環が生まれ、質の高い外科医療の均てん化、新しい技術の速やかな社会浸透が可能となる。
■ 社会実装に向けた取り組み
日本外科学会が中心となり、関連省庁・企業と連携して遠隔手術推進プロジェクトを立ち上げ、日本医療研究開発機構(AMED)採択事業として、遠隔手術の社会実装に向けた実証実験を重ねるとともに、実施要件等を盛り込んだガイドラインの策定が進められている。昨年10月には、100キロメートル以上離れた青森県弘前市の病院と同県十和田市の病院を商用回線でつなぎ、豚の臓器を使った遠隔手術が行われ、商用回線による遠隔手術環境の構築が可能であることが示された(写真参照)。実証実験を主導した弘前大学大学院医学研究科消化器外科学講座の袴田健一教授は、「当初懸念された通信遅延は、同一県内だと1000分の4秒。国内であれば遠距離通信でも1000分の30秒程度にとどまり、人が感じることができない水準であることがわかった。また、通信回線が何らかの理由で遮断した場合でも、バックアップ回線に速やかに移行して、人間と同じ手術術式を想定した動物手術が支障なく行えることも確認された。安全で確実な遠隔手術支援の実現に向けて準備が進んでいる」と述べている。
■ 課題と提言
遠隔手術支援は、それを必要とする患者に対して、従来の手術と同等のアウトカムを、より高い利便性をもって提供できる可能性が高い。遠隔手術支援を普及させるためにも、診療報酬において、従来の手術と同等水準の評価をすべきである。
また、遠隔手術支援では、支援する施設側の費用と、通信回線の接続費用が新たに発生するため、実施する地域・施設にとってこれらの費用は大きな負荷となる。遠隔手術支援の普及は、地域医療の維持・格差是正に資することから、特に医療資源の乏しい地域の住民が積極的に活用できるよう、同支援システムの導入・維持のためのコスト負担を軽減する公的な助成を含めた制度設計を求める。
【産業技術本部】
- Society 5.0時代のヘルスケアⅢ(全7回)
- 〈1〉各論~健康管理・増進
- 〈2〉各論~診療
- 〈3〉各論~調剤・服薬指導
- 〈4〉各論~手術
- 〈5〉各論~介護
- 〈6〉各論~治験
- 〈7〉各論~基盤
- 〈2〉各論~診療