経団連は2月15日、社会保障委員会医療・介護改革部会(本多孝一部会長)をオンラインで開催した。医療経済研究機構の服部真治主席研究員から、2022年から議論が開始される次期介護保険制度改革における論点とその対応の方向性について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 介護保険制度を取り巻く環境
公的介護保険制度をめぐっては、24年度からの第9期介護保険事業計画に向けた制度見直しの議論が今年予定されている。高齢化の進行に伴う財政上の影響や、人口減少下で介護サービスを支える人材が減少するなか、介護制度の機能低下が懸念されている。加えて、岸田政権が掲げる介護職員等への処遇改善を継続的に実現していくための財源確保も課題である。こうしたなか、制度の持続可能性を確保するうえでは、今回の制度改正の議論において、前回の制度改正で先送りされた利用者負担の引き上げや、被保険者範囲・受給者範囲、軽度者に対する生活援助サービスの地域支援事業への移行など、給付や負担の見直しにかかわる論点を前進させる必要があると考えている。
■ 軽度者への生活援助の総合事業への移行
今次制度改正の論点の一つに、軽度者に対する家事支援等の生活援助サービスの総合事業への移行がある。わが国の介護保険制度の特徴の一つであるが、要介護状態の者だけでなく、身体機能に障害がない軽度者にも予防・改善のために給付が行われている。
しかし、介護保険給付は全国一律の基準に基づき提供されていたため、軽度者にとってはサービスが過剰となり、改善の可能性があった軽度者の能力が、かえって低下するという課題が指摘されてきた。そこで累次の制度見直しを経て、現在は状態改善の可能性のある者を「要支援者」と認定し、国による介護保険給付ではなく、市町村が実施する「総合事業」によるサービスが提供されている。市町村による「事業」とすることで、それまでの一律的な介護保険給付による対応ではなく、市町村が地域の民間サービスなどを柔軟に組み合わせ、要支援者の状態に応じて、効果的かつ効率的にサービスを提供できるようになった。地域の民間サービスも活用することから、企業にとっての新たなビジネスチャンスとなっている事例も存在している。
財務省などからは現在の要支援者だけではなく、軽度の要介護1、2の利用者に対する訪問介護(生活援助サービス)なども「総合事業」へ移行すべきとの指摘がある。しかし、軽度かどうかという視点で判断するのでなく、利用者の状態改善の可能性を判定する仕組みを構築し、可逆性のある者を総合事業の対象とすべきではないか。つまり、要介護度にかかわらず、状態が改善する可能性のある者は総合事業、そうでない場合は介護保険給付とすることがよいと考える。
【経済政策本部】