Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年3月17日 No.3537  サステイナブルな社会の構築にスタートアップが果たす役割 -スタートアップ委員会・企画部会

経団連は2月21日、スタートアップ委員会(南場智子委員長、永野毅委員長、髙橋誠委員長、出雲充委員長)と同企画部会(齊藤昇部会長)の合同会合をオンラインで開催した。Spiberの菅原潤一取締役兼執行役から、同社の取り組みやその社会的意義について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ Spiberについて

菅原氏

当社は、山形県鶴岡市に設立された慶應義塾大学先端生命科学研究所での研究成果をもとに創業した大学発スタートアップである。

生命体の主原料であるタンパク質を工業材料として使いこなすことをビジョンとしてビジネスに取り組んでいる。クモの糸、カシミヤ、ウールなど、優れた機能を有する自然由来の素材から分子のデザインを学びながら、微生物発酵を活用した独自の技術により、アパレル・輸送機器・医療など製品ごとに求められるさまざまな性能を付与した新規のタンパク質素材を生み出している。

■ サステイナブルな社会への貢献

2007年の創業当初から「石油に依存した消費型社会から脱却し、地上の資源で循環する持続可能な社会に転換しなければならない」というぶれない信念を抱いている。世界の素材別繊維消費量の推移をみると、1950年代までは自然由来の繊維のみで成り立っていたが、ナイロンの発明、世界人口の飛躍的な増加に伴い、石油由来の化学繊維の消費量が増加した。今後も化学繊維の需要は増える一方である。石油由来の製品は環境負荷が大きい点が最大の問題であり、海洋中に投棄されると分解するまで非常に長い年月を要するといわれている。また、羊などの家畜の飼育を増やすことで、化学繊維を自然由来の繊維に置き換えるということも考えられる。しかし、家畜の飼育には大量の土地や水が必要であることに加え、家畜が排出するメタンガスが地球温暖化に影響を与える点にも留意が必要である。

これらの課題を解決できるのが当社の製品である。短期間で海洋分解が可能であること、製造工程で発生する温室効果ガスの排出が抑えられることにより、サステイナブルな社会の構築に貢献すると考えている。

■ 研究開発と大学との連携

実験の自動化

当社の価値の源泉は研究開発と知的財産であり、これまでも熱心に取り組んできた。例えば、新たな素材の開発にあたっては、これまでクモだけでも1000種類以上の糸の特性を解析してきたほか、多様かつ大量の実験に対応できるよう、実験の自動化にも取り組んできた(写真参照)。また、隣に慶應義塾大学の研究所があり、同大学が有する最先端の知見や設備と連携できるという点も当社の強みとして挙げられる。これらにより、1000種類以上のDNAを新たに合成してきた。さらに、世界各国で数百件の特許を出願し、当社の知的財産の価値を最大限活かした事業価値証券化スキーム(注)により、大規模資金調達も実現することができた。

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講演終了後、提言「スタートアップ躍進ビジョン~10X10Xを目指して」(案)を審議し、了承した。(別掲記事参照)

(注)事業価値証券化スキーム=有形資産に加えて、特許や研究開発などのインフラをパッケージ化して、無形資産から満たされる将来のキャッシュフローを裏付ける資金調達の手法

【産業技術本部】