Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年9月8日 No.3558  経済面では変わらぬ一国二制度 -最近の香港情勢について聴く/日本・香港経済委員会

高島氏

経団連は8月4日、日本・香港経済委員会(國部毅委員長)を開催した。日本貿易振興機構(ジェトロ)の高島大浩香港事務所長から、最近の香港情勢について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 新型コロナの香港への影響

香港では第4波まで新型コロナウイルスの感染を比較的制御してきたが、2021年末からの第5波の急速な拡大によって、人口の約2割が感染した。これを機に自然感染による集団免疫獲得を促す政府専門家もおり、表向きはゼロコロナ政策を堅持しつつ、都市全体のロックダウンを回避し、極力市民生活や経済に影響を与えないようにするなど、中国本土とは異なる防疫政策を取っている。

経済は、中国と香港での新型コロナの感染拡大によって21年の回復基調から一転した。22年第1四半期の実質GDP成長率は前年同期比4.0%減、第2四半期は同1.4%減と低迷している。通年の成長率は1~2%との見通しだが、近々下方修正されるだろう。出入境制限によって年間6000万~7000万人の来港者が途絶え、小売消費が減少したことが経済成長全体の足かせになっている。

感染拡大期にはオンライン消費が急速に拡大したが、その消費額は小売全体の7~8%程度にとどまる。香港では高層建築が多く、物流に課題を抱えており、EC産業はそれほど発展していない。

■ 香港のビジネス環境評価と日系企業動向

7月1日、李家超(ジョン・リー)新行政長官が就任した。その際、来港した習近平国家主席は、「愛国者による統治原則」を強調した。中国政府は香港の安定した統治を求めていることから、民主派排除の路線は継続されるだろう。また、李行政長官は、社会安定のために住環境や格差など社会問題の解決に注力することを公約しており、従来の資本家寄りの政策に加えて、民生対策を強化することが見込まれる。就任前は、ロックダウンのような厳格な新型コロナ対策の実施可能性も懸念されていたが、現時点では、規制緩和を後退させる動きはみられない。

22年7月の日系企業向けのアンケートでは、84%が香港や中国のゼロコロナ政策をマイナスと評価している。また、国家安全維持法への懸念は、施行直後の81.4%から漸減し、現在5割を切り過去最低となった。その原因は、企業活動への影響がみられないことと考えられる。国家安全維持法への当初の懸念は情報統制であったが、現在は人材流出に変化した。ただし、人口流出のピークは20年であり、頭脳流出や海外移住が構造的に継続しているのかは、しばらく様子をみて判断する必要がある。

■ 広域発展計画を推進

21年施政報告で打ち出された「北部都会区構想」は、深圳市に隣接する3万ヘクタール規模の地域で、深圳と香港が一体となって経済圏を創出し、発展を目指すものである。香港・深圳間の「二都市三圏」における鉄道新線や新駅、出入境施設の設置が盛り込まれる。

また、広東・香港・澳門大湾区(GBA)では、物流設備等のハードインフラの整備と、金融、ヘルスケアなど産業ごとの制度構築、香港深圳イノベーションテクノロジーパークの開発等が並行して進展している。香港の経営者はすでに、GBAを俯瞰しながらビジネスを行っており、日系企業の香港拠点の先行きも、GBAを自社ビジネスに取り込めるかがカギである。

【国際協力本部】