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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2022年11月10日 No.3566 日本のレッド・バイオの現状と課題 -バイオエコノミー委員会企画部会

経団連は10月24日、バイオエコノミー委員会企画部会(藤原尚也部会長)を東京・大手町の経団連会館で開催した。ヘルスケア・イノベーションの宮田満代表取締役から、わが国のバイオエコノミー形成の現状と課題について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 新型コロナ・パンデミックの危機

新型コロナウイルスのパンデミックは、日本の新薬開発やワクチン開発のバリューチェーン、保険医療体制における問題点を明らかにした。医療情報の共有も停滞している。電子化の遅れや縦割りの情報収集システム、個人情報の取り扱いの壁が原因となっている。

世界では医療情報のシェアリングが積極的に行われている。例えば、ゲノム解析技術が進展したことを契機に、未診断疾患研究のデータベース構築が急速に進み、希少疾患の診断率向上や治療の適正化につながっている。この仕組みは新型コロナに関するタイムリーなデータシェアリングにも役立っている。

また、英国はNHS(National Health Service)のデータベースにより、新型コロナの疾患別死亡の相対危険度を解析し、その情報を開示している。さらにNHSの加入者は、無料で事業公共性の高いデジタル医療を受診できる。効率化によって、高水準の医療サービスの提供が可能となっている。

一方、日本はデジタル医療に関していまだ標準規格化が行われておらず、社会医療情報の分散統合は未完のままである。医療ITに関するOECDの報告書によると、日本の医療データの活用や、電子カルテの普及・標準化のレベルは、他の国々と比べて非常に低い。日本の健康医療情報の基盤構築は大きく出遅れている。

■ ドラッグ・ロスの危機

世界の医薬品市場における日本のプレゼンスが低下している。欧米で認可された新薬の多くは、日本で認可されておらず、ドラッグラグが懸念される。

こうした背景として、まず、医薬品のモダリティ(種類)が、かつての低分子医薬品からバイオ医薬品へと変化していることが挙げられる。日本の製薬企業は、抗菌薬や生活習慣病薬で革新的新薬を生み出してきたが、その後のモダリティおよび創薬対象疾患の変化に大きく後れを取った。

また、世界各国の医薬品市場が拡大するなか、日本の医薬品市場は縮小しており、日本市場の国際競争力が低下した。

さらに、イノベーションの評価において、世界と乖離していることも問題である。特許期間中の薬価維持は、日本以外の主要先進国のスタンダードである。

日本の治験環境や薬事規制が原因で、国際共同治験に日本が組み入れられないといった事象が発生している。

■ ベンチャー起業力の向上

創薬開発におけるベンチャーの重要性が増している。世界の創薬開発品目のうち、ベンチャー由来が80%を占める。新薬・ワクチンの開発はナショナルセキュリティと位置づけられ、欧米や中国では、ベンチャー支援を含め国家的な取り組みが進められている。

日本は、起業に必要な環境や条件が整っていない。日本の創薬ベンチャーの研究水準は高く、実力のある企業も多いが、いまだ国民や社会において、ベンチャーの社会貢献に対する認知度が低く、資本や人材の供給の頸木となっている。新規上場社数や資金調達額が小さいので、まず、ベンチャーが挑戦するための原資が必要である。米国では、年金基金による出資が、ベンチャーキャピタルファンドの約半分を占め、ベンチャーの原資を下支えしている。また、人材の流動化も重要である。才能と資本を大企業から解放し、ベンチャーに優秀な人材が向かうようにすべきである。

新薬・ワクチンの創製は、国民のセキュリティ問題でもある。製薬企業のみならず、国民、医療関係者、投資家、国家、自治体、アカデミア、メディアなど幅広いステークホルダーを糾合し、具体的なP3(プライベート・パブリック・プロジェクト)行動計画について議論、提言する場を創成すべきである。

【産業技術本部】

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