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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年2月9日 No.3578 医療データの利活用と各国の医療情報基盤制度 -イノベーション委員会企画部会

経団連は1月16日、イノベーション委員会企画部会(江村克己部会長)をオンラインで開催した。渥美坂井法律事務所シニアパートナー・同外国法共同事業プロトタイプ政策研究所所長で、日本医療ベンチャー協会理事の落合孝文弁護士から、医療データの利活用と各国の医療情報基盤制度について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 医療情報に関する同意取得規制

2021年の個人情報保護法の改正によって、公的部門のルールを整理して民間ルールと統一され、地方自治体における個人情報保護法制2000個問題(注)も解消に向けて整備が進んでいる。これまでは民間企業が医療関係の事業を行う場合、各自治体で異なるルールすべてに対応する必要があった。今後は新しい共通ルールが設定されるため、企業の事業展開が容易になる。

ただし、要配慮個人情報を含む医療情報に関する同意取得に関しては依然として課題が残っている。個人情報保護法における要配慮個人情報の第三者提供は、同意を得るほか、公衆衛生や学術研究など医療を目的とした場合には例外的に可能であるが、民間機関による研究開発は学術研究に含まれないため、基本的には例外に該当しないことが多い。また、公衆衛生例外については、個人情報保護委員会が同意なしで第三者提供できる場合の解釈を一部明確化したが、広く例外を適用することが難しい状況にある。

■ 諸外国の医療情報基盤

各国も医療情報基盤の整備を進めている。フィンランドは、社会保険庁「KELA」が、集中管理型医療情報アーカイブである「KanTa」に全国の医療機関や薬局等で得た患者情報、電子カルテ情報を記録・管理している。また、健康および社会保障データの二次使用に関する法律に基づいて設立された「Findata」は、医療情報の研究開発等への利活用に関する許可、ワンストップサービスの提供を行っている。

英国は、NHS(英国国民保健サービス)法に基づいて設立されたデジタル化を行う組織である「NHS Digital」が、NHS番号という医療分野におけるIDを管理している。IDを活用することによって、NHSから得た病院の外来、入院、救急データとGPシステム(一般診療用全国電子カルテサービス)のデータの交換・連結の操作等を行っている。

■ わが国の医療情報基盤に関する課題

英国やフィンランドでは、特に患者への医療情報の開示が重要視されているなか、わが国は、患者が自身の医療情報を確認する仕組みや、政府が国民の医療情報を把握する仕組みがいまだ整備されていない。国民の統一IDが情報連携基盤に利用されておらず、医療情報の整理・統合が十分に達成できていないことが背景にある。その解決策として、マイナンバーの利用促進や、マイナンバーカードと健康保険証の連携を進めていく必要がある。

また、各国の取り組みを参考に、わが国においても医療情報基盤に関する総合的・俯瞰的なアーキテクチャーを整備していくことが重要である。そのためには、情報連携を進めるための法的枠組みと、データ連携のシステムおよびアーキテクチャーの両面を整備する必要がある。さらに、デジタル庁のデジタル政策も踏まえつつ、医療・介護・健康に関する情報連携と、情報を利用した施策を立案・運用するための司令塔を設けるべきである。例えば、(1)診察と服薬指導の連携(2)医療と介護の連携(3)スマートシティーにおいて課題とされる医療・健康と日常生活との連携――などを検討する必要がある。

(注)47都道府県、全国1718の市町村(23年1月現在)、東京23区などそれぞれに、自治体の保有する個人情報を規律する条例が合計約2000個存在し、かつ異なるルールをそれぞれ課している。このため、個人データの流通や自治体間の連携が阻害されている

【産業技術本部】

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