
ウルフ氏
経団連のアメリカ委員会連携強化部会(豊川由里亜部会長)は4月10日、米国の輸出管理の専門家で商務次官補を務めたケビン・ウルフAkin法律事務所パートナーの来日の機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。ウルフ氏による説明の概要は次のとおり。
■ 輸出管理の目的とその変化
輸出管理は、国家安全保障と外交政策の目標を達成するために実施されるが、その目的は、時代によって変化してきた。冷戦期から冷戦終結直後の輸出管理は、戦略的に管理する品目を定め、大量破壊兵器の不拡散を目指すものであった。現在の輸出管理体制が確立し始めた1990年代前半には、携帯電話のプロセッサーやGPSが、兵器の設計やミサイルの誘導に利用可能であるという理由から規制の対象となり、ソ連や中国に対する商用通信機器の輸出の大部分が禁止されていた。
従来、輸出管理は、経済的な目的の達成のために講じるべきではないとされてきた。しかし、現在、経済安全保障は国家安全保障と一体であると考えられる傾向にあり、輸出管理の目的も冷戦期とは異なる。実際、2022年初頭、日米ほか同志国政府は、商業目的の商品も対象に、ロシアに対する輸出管理を実施した。この措置の目的は、ロシアの経済力を削ぎ、ウクライナへの軍事侵攻の継続を困難にすることにある。
また、同年10月には、米国商務省が、AI処理やスーパーコンピューターに利用される半導体ならびに先端半導体の製造装置の中国向け輸出について、新たな管理措置を発表している。この措置の目的は、中国における先進的ノード半導体、半導体製造装置、先進的コンピューティング品目、スーパーコンピューターの開発・製造を制限することである。バイデン政権は、中国がこの四つを開発・製造することは、米国の国家安全保障上の脅威であると明確に述べている。つまり、輸出管理の目的が、冷戦下のように、大量破壊兵器の不拡散だけではなく、より広い戦略的なものへと変化しているのである。
■ 輸出管理レジームとその限界
冷戦後の輸出管理は、四つの主要な多国間レジーム(注)を基盤にしている。同レジームにおいては、管理対象となる品目等について、多国間で合意しリスト化して管理している。多国間で合意することにより、効果的な規制が可能となるほか、平等な競争条件が担保される。一方で、レジームによる管理には弱点もある。最大の弱みは、レジームのマンデートや対象品目リストは、コンセンサスを形成しなければ変更できないことである。これは、同レジームの参加国すべてが拒否権を発動できることを意味しており、実際、ロシアはリストの変更を阻んできた。また、これらのレジームの管理対象は真に国家安全保障に関わる品目のみに限定されており、中国の軍民融合のような現状を勘案した内容となっていない。
こうした現状に鑑みれば、日本、米国、韓国、オランダ、英国、ドイツ、フランス等の少数国のみが参加する、新しい輸出管理レジームを立ち上げる必要がある。この枠組みにおいて、現状ロシアのブロックにより規制できていない品目も含め、広範に規制対象とすべきである。23年、G7議長国を務める日本が、この取り組みを主導することを期待する。
(注)原子力供給国グループ(NSG)、オーストラリア・グループ(AG)、ミサイル技術管理レジーム(MTCR)、ワッセナー・アレンジメント(WA)
【国際経済本部】