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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年5月18日 No.3590 産業保健をめぐる現状と課題 -労働法規委員会

堀江氏

経団連は4月11日、労働法規委員会(冨田哲郎委員長、小路明善委員長、芳井敬一委員長)をオンラインで開催した。産業医科大学の堀江正知副学長から「産業保健をめぐる現状と課題」と題して説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 衛生管理者・産業医の歴史

1911年に成立した工場法に基づく「工場危害予防及衛生規則」は、38年の改正で常時500人以上の職工を使用する工場で工場医を選任し、健康診断や定期巡視を行うよう規定した。戦後、工場法に代わる労働基準法が2種類の衛生管理者(医師・非医師)を定義した後、72年に同法から独立した労働安全衛生法(安衛法)が産業医を定義し、現在に至る。産業医の職務は当初、健康診断の実施・健診結果に基づく措置や、労働者の健康障害の原因調査・再発防止が中心だった。近年は作業環境の維持・管理、健康教育、長時間労働者・高ストレス者への面接指導等に拡大している。

法令の変遷をたどるなかで、(1)産業医が事業場を十分に訪問できていない(2)保険者が産業医に保健事業への協力を期待している(3)健康診断が公衆衛生上の課題を想定したものになっている(4)衛生管理の専門家が退職している――等の実態がみられる。職務と責任が増大した産業医が、職場の健康課題に優先して取り組めるよう、保健事業や公衆衛生と産業保健との役割の整理や、現場の衛生管理の技能継承を進めることが課題である。

■ 安衛法の発展と課題

国際労働機関(ILO)と世界保健機関(WHO)は、産業保健の目的を職業性疾病の予防と就業適性の確保と定義している。日本は循環器疾患(脳・心臓疾患)と精神障害に業務疾病の認定基準を示している稀有な国であり、健康診断でも循環器疾患リスクに関する項目が多い。健康診断の目的を法令で明記し、職場の有害要因(長時間労働と心理的ストレス)に注目した視点から事業者の責任範囲を明確にすべきである。

2023年4月からは新しい化学物質規制が施行され、事業者によるリスクアセスメントとばく露防止措置が重要となる。欧米では、職場の有害要因の予測・認識・評価・制御・確認を行う「ハイジニスト」が産業医と協働で産業保健を推進しており、国際標準を踏まえた専門家の養成が急がれる。

22年6月のILO総会で、中核的労働基準に「安全で健康的な労働環境」に関連する二つの条約が追加された。日本はこのうち、155号条約を批准していない。労働安全衛生の分野で先進国と認められるためにも、早期批准が求められる。

■ 法令の対象になりにくい労働者の産業保健

労働者数50人未満の小規模事業場は全体の約97%に達する。健康診断の実施義務が課せられているものの、産業医の選任義務がないことから、健診結果に意見を述べる医師がいない。小規模事業場の産業保健活動を支援する「地域産業保健センター」が設置されているが、規模や体制面で十分とはいいがたい。今後は、企業・グループ単位で各事業場の安全衛生水準を確保することや、商工会議所・商工会、工業団地等の単位で中小企業が集合体を結成して産業保健体制を構築することが課題である。

【労働法制本部】

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