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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年6月22日 No.3595 次世代放射光施設ナノテラスとスプリング8-Ⅱ -イノベーション委員会

高田氏

岡部氏

古田氏

経団連は6月2日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会(安川健司委員長、稲垣精二委員長、田中孝司委員長)を開催した。光科学イノベーションセンターの高田昌樹理事長、東北大学大学院工学研究科の岡部朋永教授、文部科学省科学技術・学術政策局研究環境課の古田裕志課長から、次世代放射光施設 NanoTerasu(ナノテラス)と大型放射光施設 SPring-8(スプリング8)のアップデート(SPring8-Ⅱ=スプリング8・ツー)に関する取り組みについて説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 次世代放射光施設とは

ナノテラスは、通常の研究設備では見えない物質の機能や物質表面の反応を可視化する、いわば巨大な顕微鏡である。スプリング8で培った技術を結集した加速器で電子を光速近くにまで加速させ、太陽の10億倍の明るさをもつX線を利用し、既存の放射光では見えなかったさまざまな素材や生物組織を機能も含め精緻に解析できるようにする。

現在、兵庫県で稼働している大型放射光施設スプリング8は、スマホの画面やシャンプーといった身の回りのものから、建材、エコタイヤ、燃料電池、インフルエンザ治療薬など、幅広い素材・製品の技術開発や、疾患・難病のメカニズムの解析のために活用されてきている。

ナノテラスは、東北大学の青葉山新キャンパスという、仙台駅から地下鉄で9分の好立地に、2023年度内に竣工する。その有志連合であるコアリションでは、産学双方が1対1のチームをつくり、社会課題の解決に向けて協働していく。現在、140を超える企業・団体がコアリションへの加入を希望しており、今後も企業からの積極的な参画を期待している。

■ ナノテラスを活用したサーキュラーエコノミーシステムの構築への取り組み

23年4月から始まった内閣府の第3期SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の課題として、「サーキュラーエコノミーシステムの構築」が採択されている。現在、そのシステムの要となるデジタル基盤DPP(Digital Product Passport)の構築計画が進んでいる。DPPは、エネルギー利用率・再生材含有率、耐久性など、製品のサステナビリティーに関する情報を原材料から製品、リサイクルに至るまでひも付けることができる。

プラスチックのサーキュラーエコノミーには満たすべき要件がある。例えば、脆いプラスチック等の再生材は、衝撃を受けた際にできる破片が人に刺さりやすい。そのため、再生材を自動車に活用するにはその品質を担保する必要がある。ナノテラスは結晶の配向度や不純物の量などを高精度で解析できるため、信頼性のある再生材データをスピーディーに収集することで、品質の要件を満たすことができる。このため、その利活用には大きな期待がかけられている。

再生材の利用拡大は、欧州で検討されている欧州ELV(End-of-Life Vehicles、使用済み自動車)指令への対応(注1)に貢献し、自動車等の輸出向け国内製品の国際競争力の向上にもつながることから、ナノテラスを利用した産学官の取り組みが必要である。

■ スプリング8のアップデート

24年度の政府予算でスプリング8をアップデートするプロジェクトを開始し、4年間の整備期間を経て、29年度からスプリング8・ツーを稼働したいと考えている。アップデートにより輝度(注2)を100倍にまで高めることで、データを取得するのに3年かかっていたものが、数日にまで短縮できる。

今後、アップデートによって、民間企業の利用率もアカデミアと同程度に高め、カーボンニュートラルや半導体戦略、国土強靭化、経済安全保障といった国家的な課題の解決にも貢献していきたい。

(注1)規制の発表を念頭に、欧州の各自動車メーカーは新車への再生プラスチック利用率の目標値を30年までに30%に設定している

(注2)性能を示す指標のひとつ

【産業技術本部】

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